15話 三之宮詣り〈偽神〉
ティフィンと
かるい後悔にシェマは、ひたった。
水晶の結晶に彩られた空間は、
見上げると相当な高さから、いくつもの水晶の柱がたれさがっている。
「
思わず、シェマは
「もろもろの
ひとりでは、神にすがるしかないと思えた。
唱え終わらないうちに、
「——よう来た」
「ほれ、加護をやろう。あーん」
いつのまにか
そして、シェマに口を開けるように、せっついた。
いや、その御姿は人になじみやすい姿をとるのであって、常ではないのだともいう。
「あ」
逆らえず、シェマはとまどいながらも口を開いた。
「それ」
白く
「
シェマの口の中を、つよい甘さが満たした。つよすぎて舌がしびれるほどだ。
「はぁ、る、かみ」
口中いっぱいになった
「くれぐれも、
白髪の
「……うっ?」
シェマは口中で
「う? う?」
『
シェマの中でユーフレシア皇子の声が明滅した。
シェマののどを、一気に
(息、できない……)
『ティフィン! ティフィン! こっちだ! 来てくれ!』
ユーフレシア皇子の叫ぶ声が、遠く、近く、遠く——。
がくりと、地面にシェマは、ひざを落とした。倒れ込む
壁の水晶の結晶がゆれていると思えたのは、シェマがめまいを起こしかけていたからだ。
左手が空をつかむ。右手が壁の結晶の結晶の根元をつかんだ。小さな結晶のいくつかが手のひらにささる。痛さに一瞬、意識がはっきりとした。
おぉうぅ。
獣の雄たけびがして、白い影がシェマの目の前をかすめた。
「シェマ殿!」
名を呼ばれ、シェマは、うしろから抱え上げられた。
腹の辺りを、ななめ上に強く突き上げられた。何度か、突き上げられるうちに、
シェマは、はげしく咳き込み、くずれ落ちた。ティフィンの腕の中だった。
『あぶなかった……』
シェマの中のユ―フレシア皇子も、ふらついているようだ。
彼の本体は、今も王宮の一角、皇子の寝所にあると思えたが。
「
ティフィンの視線の先で、仔犬は
白髪をちぢに乱し四肢をひくつかせた老婆の
そして、最後には 一本の
それを
「それぐらいでやめておけ。
ティフィンが紐の端を踏んだ。
「……」
ティフィンは黙って、ふところから
『ティフィン、ティフィン』
水晶の地面に横たえられたシェマの中から、ユーフレシア皇子が呼んでいる。
『叔父上の意識が戻らない』
急いでティフィンは、シェマの元へ戻る。
『何が
「魔物に何か含まされたのですね」
『あいにくと毒消しをすべて使いきったところに、これだ』
「三之宮の
『叔父上の
ユーフレシア皇子は朗々と
『
辺りの白水晶が、一瞬、光の布になぜられたように変化をみせた。
『水晶どもがァさんざめくと思うたらァァ』
晶洞の天井からは、いく本も白水晶の柱がたれさがっていたが、中央にある、ひときわ、おおきく透明な水晶から声が響いた。
水晶の中に、白髪の
ティフィンは、はっとして、「
「
『——皇子のォ
『その者ォ、結晶をこわしたとォ水晶どもがうったえておるゥゥ』
「——恐れながら、
ティフェンは、ずいと水晶の柱の前に進み出た。
「三之宮の神を
『そのようなァ者の侵入をゆるすとはァァ、今生帝の代になりィィ、神域の手入れがおろそかになっているゥゥ』
「まことに、まことに遺憾なことでございます」
『今日のところはァ、すみやかに去れェ』
白ひげの翁、
『
シェマの
『
『わたしの亡き母は、この三之宮に参詣したのちに、わたしを授かることができたと十三の宮の中でも、
『ほォ。ひとつの身体に、ふたつの魂ィ。そなた、それほどまでに参りたかったかァ』
白ひげの
水晶の柱から
『そうかァ。覚えがあるぞォ。この
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