第6話 詳細を聞いてもよくわからない人助け

 そのまま数十分。ボクは未だ手をお姉さんに掴まれ、何処かへ連れて行かれている。ボクが貧弱なのかお姉さんが凄いのか、その手を振り払えないでいた。


 それとお母さんが何故か遠目からこちらを覗いていた。お母さん、そこにいるなら助けてよ……。


「着いたわ」


 お姉さんが立ち止まる。そこには看板でRe:live事務所とあった。


「社長、ちょうどいい子見つけたのだけれど」


「あら、おかえりなさい。ねぇ、ちゃんと了承得たの? 明子」


「あ……」


「後でお説教ね」


 建物の中に現れたスーツ姿の長身美人さんは、ボクを連れてきた明子さん? を問い詰めていてボクは置いてけぼりとなっていた。


「それで、貴女の後ろにいるのはお母さん?」


「え?」


 振り返ると、ボクの後ろにはいつの間にか建物内に入ってきたお母さんがニコニコと微笑んでいた。


「そうよ〜私が夕希のお母さんの綾瀬千尋よ〜」


「そうですか、なら千尋さん及びその娘さんの夕希さんにお願いがあります」


 えっ、なんか勝手に話が進んでいるのだけれどどうすれば? お母さんは真剣な顔をしていて、お相手さん方も真剣だ。


「夕希さんを私達の事務所。Re:live事務所でVtuber活動をしてほしいのです」


「夕希がVtuber?」


「はい、実は今夜からの配信で新しく四期生が初配信があるのだけれど、一人逃げ出しちゃって……」


「それで変わりになれる人を探していまして」


「夕希がそのお眼鏡にかなったと……」


 聞いた感じだと、問題が発生したから助けてほしいと。ボクは記憶を無くす前、人を助けたと聞いた。だから記憶を無くす前のボクだったら……。


「やります」


「夕希いいの?」


「うん、困っている人を放っておけないから」


「……分かったわ。そういうことで家の夕希をお願いします」


 お母さんは、ボクの言葉を聞くと一瞬驚いた顔をしたが、すぐさま真剣な顔に戻りRe:live事務所の二人へと向き直った。


「ありがとうございます。改めて自己紹介を、私はRe:live事務所の社長の秋神入江と申します。呼び方は社長でも入江さんでもお好きに及びください」


 スーツ姿の長身美人さん改め、入江さんはこの会社の社長さんだったらしい。落ち着いていてかっこいいなと思う。


「では私も! 私は櫻井明子です。四期生のマネージャーになるからこれからよろしく!」


 ボクをここまで連れてきた明子さんは、お気楽そうで明るそうな人だった。


「さて、時間もないからぱっぱと予定を組み立てていきましょう」


「あの……」


「何かしら? 夕希さん」


 一つ言いたいことがある。入江さんたちが困っていたから手伝う流れになっちゃったけど。


「お話を理解せずに進めちゃいましたけどVtuberとかマネージャーってなんですか?」


「「え?」」


「あ、記憶喪失なの忘れてた……」


 そう、ボクはほんの少しの常識と知識しかないのだ。

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