第5話 記憶上初めてのお外

 あれから次の日となって病院を退院して、お外に出られた訳なのだが、周りの人がチラチラと見てきて落ち着かない。なんというか、気持ち悪い感じがする。お母さんはそれに気づいたのか、辺りを警戒してくれている。


「男には気をつけるのよ」


 お母さんが険しい顔をして助言しているが、昔嫌なことがあったのだろうか。


「家に帰る前に、食材を買っていきたいから待っててくれる? お金渡しておくからこの辺りぶらついていてもいいわよ」


「うん」


 そう言われ、三千円ほど渡されて、お母さんは巨大な建物……。スーパーへと向かっていった。ボクは広場に残されたわけだが何をしようか。あまり遠くへ行っても、迷ってお母さんに迷惑をかけるのは嫌である。


「すんすん……」


 いい匂いがする。匂いの元へ本能のままに歩いてく、たどり着いたのは窓の大きく開いた自動車。キッチンカーと呼ばれる車だった。


「いらっしゃい、綺麗なお嬢ちゃん。おすすめの味のポテト食べてくかい?」


 おじいさんが多分ボクに呼びかける。ポテトはお母さんから学んだもので、お芋さんを揚げて? 作った美味しい食べ物らしい。いろんな味付けがあって美味しいと絶賛していた。入院中は揚げ物を食べたことがなかったので興味がある。


「じゃあ、おすすめの味を一つお願いします!」


「元気だねぇ、あいよポテト揚げるから少し待ってな」


 おじいさんがキッチンカーでお芋を油の中に入れ、パチパチと音を鳴らして、香りを漂わせる。濃厚な匂いではないものの音と一緒なのか空腹感がより感じられる。まだかなとキッチンカーの窓口から覗く興味津々のボクをおじいさんは見てニコニコと微笑んでいた。


「ほら、出来上がったよ。アツアツだから気を付けて食べな」


 手渡された容器に入ったポテトは湯気を立ててできたてであることを見せつけ、ボクはアツアツのポテトにかぶりついた。


「あふっ、あふっ」


 口に入れたポテトはとても暑く、ちょっと零れそうになる。でも、無駄にしたくないからと少しずつ噛み、飲み込んでいく。塩っ気がよく感じる芋の味はボクを虜にした。

 夢中になったフライドポテトに満足した笑顔をするボクを辺りの人が見ていて、声が聞こえてくる。


「あの子かわいい……」


「手に持っている容器はあのキッチンカーのやつかなぁ……」


「あの子、ここらへんにいたっけ……。でも美味しそうに食べてるから俺も買おうかな……」


「あんな笑顔をするってことはおいしいのかな……」


 ポテトを食べ終わる頃には、あたりにいた人が、おじいさんのお店に次々と並んでいつの間にか行列となっていた。さっきまでお客さんがいなかったのにどうして急にお客さんが並び始めたのだろうか。


「よし! 貴女に決めた! ちょっと手伝って!」


「え、え?」


 名前も知らないお姉さんに手をひかれ、連れられていくボクはいきなりのことに理解が追いつかず、よくわからないままどこかへ連れて行かれるのだった……。ポテト美味しかったです、おじいさん。

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