第4話 病室生活

 目が覚めてから一日が経過した。数日後にどうやら退院というものをして、お外に出られてボクの家に帰ることができるらしい。

 その退院前の病室生活の間に、母から忘れてしまった常識やら物の名前、使い方などを教えてもらったり、服の着せ替えをされる事になった。


 例えばパンツを履いたとき違和感を感じた。なんか説明しづらいけど感覚的にこんなぴっちりとするやつじゃなくて、もっとこう……、感覚的にゆったりしていなかっただろうか?

 スカートだって、なんかスースーして落ち着かないし……。いやいやボクは女の子なんだから、でも問題ないはずなのに違和感が拭えない。


「胸がきつい……」


 ブラジャーなんて、お母さんが持ってきたけれど、ボクには小さくて入り切らなかった。無理して着けると苦しい。


「Eでも入らないのね、わたしより大きくなっちゃって」


 E? とかは分からないけれどちょっと困った様子のお母さんに申し訳ないとおもった。


「下着も着たことだし次はお洋服ね。これとこれにこれも、着て欲しいものがたくさんあるからね!」


 他にも、色々と着せ替えられたりしてお母さんがキャーキャー騒がしくて、職員の人に怒られていた。




「よし、今日私は休みだから付きっきりで夕希に忘れてた分の知識を勉強してもらうぞ」


 次の日には、お父さんがやってきていろんな事を教えてくれた。

 ボクが記憶を失う前から通っていたという学校やボク達がいる病院や困ったときに助けてくれる警察などといった公共のものや学校の教科書? とかでいろいろと学ばされた。


「ん。もうこんな時間か……。もう少し勉強させてやりたいが、おそいからなもう夕希は寝なさい」


 結果的には、時間が足りなかったけれどある程度の知識はついたと思う。




 事故から目が覚めて五日目。今日は、お母さんもお父さんも来ないらしい。昨日一昨日と眠るとき以外はずっとどちらかがいた病室がもの静かで暇になってしまう。

 手元にあるのは操作方法もまだ全部は分からないヒビの入ったスマホ。

 何もすることのないボクは、窓に映る青空をボーっとして覗き込んでた。


 外に映るのは、何処かの家族親子が楽しそうに歩いている。さらに遠くでは公園で元気に遊ぶ子供達とそれを見守る大人達。

 ボクにはその記憶がない。いつか思い出せるかもしれないし、もしかしたら一生思い出せず、これから作っていくしかないのかもしれない。

 ただ今のボクは、これからがどうなっていくかを知らないからこそ明日に迫る退院に期待して、雲一つない晴天の青空を眺めていた。


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