第3話 父は非常識な事態を垣間見る

 わたしの名前は綾瀬康二。仕事として医者をしており、今日もまた新たな患者が入ったそうなのだが、その患者がまさかの姉弟の弟の方である綾瀬夕希だった。

 夕希は小さな子どもを守る為、身を挺して守り、百キロ以上の速度を出す車に引かれたらしい。我が息子ながら人助けをするのはいい心がけではあるが自分の命も大事にしてほしいものだ……。

 現在、夕希のいる患者部屋に向かっているのだが、息子の手術にあたった他の医者があたふたしていたが問題があったのだろうか。あったとしたらそいつは殴る。


 さてと、息子の患者部屋の前についたが、どうなったかはまだ聞いてない。だからこそ心して行こう。いざ!


ガラッ


「夕希!」


 扉を開けた先の病室のベッドに見えたのは、長く輝くようになびく銀髪に二重のぱっちりおめめで碧眼の美少女がこちらを見ていた。


「……すいません。夕希って誰ですか?」


 突然の一言。そりゃそうだわたしと母の子は男。息子なんだ。こんな美少女なはずがない。そもそも、息子は黒髪黒目だったはずだ。いやでも、ここの病室にはちゃんと綾瀬夕希の名があった。

 わずか数十秒に溢れかえる情報は綾瀬康二の脳内をバグらせる。その結果一つの答えになった。


 この娘は、わたしの息子だ。そして記憶喪失だ。

 わたしは何故か崩れ落ちていた身体を起き上がらせる。このとき始めることは……。


「夕希……、お前……覚えてないのか……?」


「夕希ってボクの名前ですか?」


「あ、あぁ」


 息子もとい、娘の名前を自覚させることだ。


「あぁ……、そうだ。母さんすぐに来てくれ……」


 その後彼女が自分を認識する間に我が母、千尋を呼ぶ。それで、千尋が来るまでにわたしのことと夕希が記憶を失う前の出来事の過程を話す。


「さて、夕希……ちゃんに話しておくと、わたしは綾瀬康二だ。医者をしていて、君のお父さんでもある」


 今は仕事中だから、家族ではなく、患者と医者の関係で話を進める。


「夕希ちゃんはこの間交通事故で子どもを助けて車に引かれたんだ。それでここに運ばれて、死にかけで助からないぐらいだったのが貴女は助かっている。その代わりといっては何だが記憶を失ったみたいなんだがな……。TSしてるとは言わなかったが……(小声)」


 彼女は表情を何一つ変えないから理解しているのか分かり難いがきっと大丈夫だろう。


「入るわよ〜」


 千尋が来たか、でも少し早くないか? 家からは少なくとも40分はかかるのだが。


「あらあら夕希ちゃん目が覚めたのね〜 お父さんから聞いたわ〜 記憶喪失なんだって? まぁ、命があれば問題なしよ! また思い出を作ればいいのだから。あっ、忘れてたわ。わたしは綾瀬千尋。貴女のお母さんよ」


 娘となった息子に突撃するのは、嫁である綾瀬千尋である。いつも能天気な性格故なのか、女の子になった夕希をあまり気にしてはいない様子だった。


「千尋。見ればわかると思うが……」


「えぇ、そうね。今の夕希ちゃんはとっても可愛いということね〜」


「違う! 確かに女の子になってとっても可愛くなったけど話したいことがずれてる!」


 今の夕希は、そこらの女子高生とかと比較しても珍しい髪色とかして美少女とも言えるけども!


「まぁ、言いたいことはわかるわよ。夕希が元男の子だって知られられないようにしつつ、記憶喪失になってしまった分を教えたり、女の子としての振る舞いを教えることでしょ?」


「分かっているなら最初から言ってくれ……」


 私だって今の夕希のそばにずっといてあげたいが、明日は仕事がみっちり詰まっていてそばにいれないからこそ嫁に頼んでいるのだから……。


「え……」


「どうした?」


 千尋は口元に右手の指を立てて、静かにしているように促し、左手の指で何処かを指した。その先にいたのは……。


「すぅ……すぅ……」


 気持ち良さそうに眠りについた息子から娘へと変貌した夕希がいた。


「「可愛すぎない……?」」


 私達夫婦は同じ感想を口にした。


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