第2話 ボクは誰? あなたは?

 時間は父が入室する数分前に遡る。


 ここはどこだろう。ボクは目を開く。そこは白い部屋で自分がなんか柔らかい台で寝そべっている。辺りを見渡すと自分の腕に刺さっているものがあり、とりあえず抜く。


「夕希!」


 突然、バタンと音を出した扉に目を向ける。そこには、息を切らしているイケメンなおじさんがいた。


「すいません。夕希って誰ですか?」


 あいにく夕希という名前の人は知らない。もちろんこの黒髪のイケオジの人の名前だって知らない。


 ボクの言葉にイケオジさんが何故か崩れ落ちた。なんでだろう。


「夕希……、お前……覚えてないのか……?」


「夕希ってボクの名前ですか?」


「あ、あぁ」


 どうやら夕希とはボクの名前らしい。それとさっきイケオジさんが覚えてないのかと言っていたけどどういうことだろうか。


「あぁ……、そうだ。母さんすぐに来てくれ……」


 イケオジさんは薄い板を取り出して独り言を言っている。お友達がいなくて可愛そうだね。


「さて、夕希……ちゃんに話しておくと、わたしは綾瀬康二だ。医者をしていて、君のお父さんでもある」


 医者は知らないけれど、このイケオジさん……ボクのお父さんなんだ……。


「夕希ちゃんはこの間交通事故で子どもを助けて車に引かれたんだ。それで――    」




 三十分にも渡る長いお話を聞いたところ、車というやつにドゴンして、ボクの体がボッコボコになって助かんないレベルのものがなんやかんやあって奇跡的に復活して、その代わりに記憶を失ったらしい。


 あとよくわからないけどてぃーえす? なんてものが起きたらしい。そこのところよくわかんないからいいや。そう簡単にお話の内容を整理していると。自称お父さんが入ってきた扉が開かれた。


「入るわよ〜」


 どうやら新しい入室者のようだ。扉からは黒髪のきれいな女性が、この部屋にはボクと自称お父さんしかいないから、記憶を失う前のボクか自称お父さんのどちらかの関係者だと思うけど……。


「あらあら夕希ちゃん目が覚めたのね〜 お父さんから聞いたわ〜 記憶喪失なんだって? まぁ、命があれば問題なしよ! また思い出を作ればいいのだから。あっ、忘れてたわ。わたしは綾瀬千尋。貴女のお母さんよ」


 なんて自由な人だろうか。ボクは自称お母さんにそういう第一印象が着いた。




 あれから数分ほど自称お父さんとお母さんはずっと何かを話し込んでいるけれど、ボクは長話をずっと聞いていて眠くなり、段々と目を閉じていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る