青天の霹靂
次の日わたしは大学を休み、海人のお父さんのお見舞いに再び病院に向かった。前日は遅かったし、そもそも海人に会いに来ていたのだが「せっかくなら明日、お見舞いに一緒に来てくれない?父さんも喜ぶと思うんだ」わたしは海人に打診され快諾していた。わたしもそう言われてとても嬉しかった。
病室に入り海人がお父さんにわたしの事を紹介してくれた。海人のお父さんはイメージ通り、黒く日焼けをしてその対比で歯の白さがより一層際立つ、筋肉質の優しそうな人だった。わたしは自分の名前を名乗った。すると「ホントに「望」ちゃんなの!?」退院し明後日には居なくなる殺風景な病室で、目をまあるくしながら、こっちを見て言った。最初「それで「もち」って読むのか、珍しい名前だね」という意味かと思ったのたが、どうやら違うらしい。「小さかったからなぁ、おぼえてないよね。元気に育ってまさか海人の大学で同級生だなんて、すごいこともあるもんだなぁ」なんだか嬉しそうな海人のお父さんを見て、一瞬わたしにも喜びが伝染した。いや、まてまて。なんで私のことを知っているのだ。
「あれ以来水は怖くないかい??」
「ス、ストップ!」初対面であろう人にかける言葉ではないが、パニックになりかけ、慌てて口を開いたら思考がそのまま言語化されてしまった。「何の話なのかわからなくて…小さい頃お会いしたことがあったんですか??」
海人のお父さんは名前を信二というらしい。彼は嘘のような話を現実世界で起きた事のように話し始めた。小学生の頃、わたしは海で溺れた。家族で砂浜に来ていて、親が目を離したすきに姿を消し、波にさらわれたらしい。そのとき現場でライフセーバーをしていて助けてくれたのが、なんと若き日の信二さんだったというのだ。意識はあったが海水を飲むなどしたため、数日間入院。その後いつもの日常生活に戻ったのだ、と。
「本当ですか??」現実でわたしが経験した事とはにわかに信じられず、キョトンとしながらこう聞き返した。まず、この事についてわたしは何も知らない。親がある意味「封印」していることはなんとなく直に理解したが、それでも小学生くらいの記憶ならその前後も含めて断片的にでもあるはずではないのだろうか。
「そうか、実はね…」彼は続けた。
「実はあの時、君は少し記憶喪失を起こしていたかもしれないんだ。だから記憶のメカニズムが狂って、逆に当時のことを覚えてないのかしれないね。うーん、僕も正直者すぎたかな、知らなくて良いこともあるのに、気が利かなくてすまない」自分に呆れたように苦笑いしながら、無意識に余分ある言葉を含みつつ、それでも優しく言った。
「そんなことはないです!何も気にしなくて良いですし、お話してくれて寧ろありがたいです」
さすがにこれには海人も驚いた様子で「とりあえず、ここら辺は割と詳しいからランチがてら二人で散策してくるよ」と父に伝え病室をでた。
出てすぐに「電話してくれば?」少し動揺しているわたしを見て海人は提案してくれた。「うん、ありがとう」そう返し、母に電話した。母とは今もマンションを借りて二人で暮らしている。わたしが家に電話をすると、想像していたより数倍も冷静に「帰ってきてお話しましょう、まってるから」と、敬語まじりに電話の向こうで言った。海人にそのことを伝え、そのままわたしは家に帰って母と話すことになった。
今、過去の出来事と今起きている出来事の点と点が結び付き始め、何かが動き始めるような気がしている。頭の中がそのような思考で埋め尽くされ、常に「ON」のモードであるからなのか、わたしはいつもより細くキビキビした動きで自宅に向かった。
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