誕生日

夏だ!海に行こう!これは某旅行会社のキャッチフレーズである。というのは「まことではないこと」だ。言葉の綾によって、右か左か、上か下か一瞬わからなくなる感覚が最近好きだ。


それはさておき、いまわたしは本来好きではないはずの海にいる。海人を含む最近仲良しの4人で横浜の山下公園というところに来た。わたしが泳げないからと、フナムシが苦手だからと、砂浜とかではなくコンクリートの上からベイブリッジなとが望める場所を春香と健一が選んでくれた。優しい。ちなみに二人は付き合いたての恋人同士でもある。

なんだか生命力の強そうな名前のカップルだなぁ、と前を歩く2人を見ながらわたしは今猛烈に思っている。そしてそんな2人が近くに現れたことがなぜか嬉しくもあった。


常に潮風に吹かれている、深く濃い茶色のベンチに4人で腰掛けていると誕生日の話になった。

春香は4月、健一は6月。2人の回答にいつもよりソワソワしながら、わたしは1月1日生まれだと伝えた。

「そうなの!?すごいね!!」なせか得意げなわたしは、3人がいつも見る「わたしの誕生日を初めて知った人のリアクション」をしてくれたので、少し安心した。変わらないものや変わらない事はいつでも安心感を与えてくれる。


海人は?7月…何日?20日?

「おー!すごい元々の海の日じゃん!さすが海人!笑」と少しだけ博学な健一が言った。

海の日は7月の第3月曜日という現行のルールになるまでは、7月20日で固定だったらしい。初めて誕生日の話で主役を取られた感じがして、なぜかちょっとだけ悔しかった。「海人ならいいけど」と小さく呟いたが春香に聞かれていた。素敵な笑顔で誤魔化してくれた春香がとてもキラキラしていて、もうなんか青春!という感じがした。この場面が息絶える時の走馬灯で流れますように。


恋のはじまりとかではない。

この空気感にずっと触れていられたらいいのにな。

それと、「海もいいものだな」って思えたから。

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