さんもち

「好きな男性のタイプは?」

当たり障りのない色恋トークでよく飛び出す質問ワード。これに対しわたしは一貫してこう答えている。


「わたしより生命力があるひと」


わたしは強そうな「もち」という名前に反し、生命力があまり無い気がする。少し強い風が吹いたら飛ばされるのではないか?と思わせるほどに。


ないものねだりなのだろう。わたしは男女問わず生命力のある人が好きだし、異性に限定するなら尚のことだ。顔などは面食いというわけではない。勿論好きなタイプの顔面、くらいはあるけれど。


大学に海人(かいと)という男の子がいる。

あまり接点はなく数回会話をした程度。ただ単純なわたしは初対面の時から「生命力のありそうな名前だなぁ」とナチュラルに気になっていた。


海人とは全く関係ないが、わたしは「海」があまり好きではない。そもそも泳げないのだ。だから海水浴にもいかないし、なんで地上で暮らしているのに海や川で泳ぐ術が必要なんだろう?と、泳ぐ話の時だけは少しばかり卑屈になり意固地になる。他の要因としてはフナムシが苦手というのもあるが…。魚介類を食べることはめちゃくちゃに好きだけど。


それが要因なのか、わたしの中では相手が「海が好き」とか「泳ぎが得意」と言うだけで、わたしが苦しい環境や状況でもその人は死なない=「生命力が強い」という謎の仮説を成り立たせているのである。


5月の少し風の強い日。大学の最寄り駅近くのカフェで、BGMに少しだけ混ざる、植え込みからの「ざわざわ音」を耳にしながら課題をこなしていると、たまたま店に海人が入ってきた。

最初わたしには気付かず、使用感が心地よさそうな普段使いの黒いリュックを、空いていた隣の席にポンと置いてきたので、さすがに声をかけた。そこから私が帰る目安にしている時間くらいまで彼もいるつもりであった事が判明。せっかくだからと、コーヒーを飲みながら少し話すことになった。先述したが彼の名前からして「興味」がもともとあったので、ラッキー!と思いながら少し高揚して話をしていたのだろう。課題のことは頭からすっかり消え去り、お喋りに没頭した。まるでドラマや少女漫画みたいな展開すぎて恥ずかしくなる。


そしてやはりというべきか、海人はわたし調べ上「生命力の鬼」レベルであることを知った。その名の通り彼は海が大好きで泳ぐのも得意。更に彼の父はライフセーバーなのだという。もう君は海人として生まれ誰よりも海人で海人じゃないか(意味不明)


さすがに好きになりそうだったので、頑張って彼の目を見ながら喋りながらも、正常を装いその場を楽しく過ごした。久しぶりに異性との会話で自然にでる笑顔を自ら感じ、とても嬉しかった。

この人は自分にないものを持っていて…

ん?なんかどこかで聞いたことがあるような、ないような…。


なぜかふと、両親の顔が少し頭に浮かんだ。

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