五章 パラグラフリーディング

 凄惨な崩壊劇にも、ようやく、終わりが見えてきた。早朝である。下屋敷の敷地内は、排水と瓦礫の撤去が進められていた。別府は第一発見者の瑞木新七を書院で待たせ、未堂棟といっしょに土倉の調査へと向かった。大村昌村の殺された現場である。

 土倉の門扉から侵入した痕跡はなかった。室内には瓦版や望遠鏡などの日用品が落ちている。内壁と外壁は壊されていなかった。しかし、別府の執拗な調査のすえ、瓦屋根が二段になっていることを知る。外からのぼった。天井の上部には採光のための出窓が設けられていた。人間の出入りこそできないが、凶器を差しこむことはできる。

 別府は出窓の底に血痕を発見した。この手掛かりは重要だった。密室殺人の方法を思いつくことができた。氾濫の利用である。犯人は大村昌村に声をかけ、濁流から避難させるために、密室状態の土倉をのぼらせたのである。出窓のあいだから凶器を差しこむだけで密室外から殺すことができる。

 犯人が密室殺人を成功させるためには濁流が不可欠である。

 よって、蛇崩池の水門は、大村昌村を殺害するために意図的に壊されたと推測した。別府は書院にもどった。水番人の家系である瑞木に話をきいた。作間家に関係する者にかぎり、水門を破壊できる状態にあったことが判明する。容疑者が四人に絞りこまれる。

 その話の最中、町役人があわてた様子で、書院内にはいってきた。

 北の離れ座敷で大村菊太郎の絞殺死体が見つかったのである。

 佐々木五郎、大村昌村とつづいて、三人目の死体発見であった。

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