四章 パラグラフリーディング

 別府と未堂棟は氾濫に巻きこまれた下屋敷へと急いだ。表門に着くと、とおくから助けを呼ぶ声がきこえてくる。別府は裏門のさきにある土間へと走った。

 そこには死体となった佐々木五郎の姿とふるえあがる瑞木新七の姿があった。目撃者の瑞木によれば、不審者が押しいり、氾濫が起きたあと、敷地内へと向かったらしい。下屋敷には大村昌村の蟄居している土倉があった。別府は現場を町役人にまかせて、土倉へと急いだ。

 敷地内は大水にみたされていた。南側の土倉まで濁流がとどいていた。土倉はひらいていなかった。

 土倉の鍵は全壊した屋敷内にあるらしい。別府たちは仕方なく、門扉を斧で破壊することにした。土倉の錠前が落ちたのは、夜があけると同時だった。

 土倉内から泥水が外に流れてくる。その泥水といっしょに大村昌村の死体が流れてくるのだった。別府は驚きの声をあげる。そのはずだった。蟄居中の土倉は、人間の出入りを不可能にしていた。密室殺人だったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る