B 03

客車の中は、思っていたよりずっと綺麗だった。



かすかに木の匂いが漂ってくる、セピア色の壁。

向かい合わせになっている二人がけのシートは、群青色というのか、深い海のような青色だ。


古ぼけてはいない。

でも、どこか懐かしい雰囲気がある。

今までに機関車に乗ったことは無いはずなのに、どこかで見たことがあるような気がする。

過去の記憶というより、私の「機関車」の勝手なイメージと重なるところがあるのかもしれない。



車両と車両をつなぐ貫通扉がはめられておらず、ずっと奥まで見通せる。

三両編成らしいが、人がいる気配はどこにもない。

人で埋め尽くされた電車ばかりにのっていたせいか、不思議とリラックスできた。


三両目の一番後ろも、やはり扉のワクだけあり、扉自体ははめられていない。

線路が続いているのがぼんやりと見える。



客車の中をぐるり、と見回す。



乗って良かった。

乗ってから三分も経っていないというのに、そんな気持ちがどこからか湧き上がってきている。





がたん、という音がした。


と思うと、汽笛も何も鳴らないまま、列車はゆっくりと動き出した。




開いたままだったドアから車掌さんが乗り込む。


あ、と思った次の瞬間、がちゃり、と慣れた手つきでドアを閉めた。




機関車は出発してしまった。



窓から見える閑散としたホームが、ゆっくりと横に動いていく。


もうどうにでもなれ、という気分に私はなっていた。

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