八仙伝

王水

昔々 ある所に、高く峨しい御山がありました。其の頂には沢山の草花が根を張り、食らうと寿命が伸びる果実が実っておるのだそうです。其処は八人の仙人が住む山、『八仙山』として人々に畏れられておりました。


『八仙山』には八つの嶺があり、「壹ノ山」「弐ノ山」「參ノ山」「肆ノ山」「伍ノ山」「陸ノ山」「漆ノ山」「捌ノ山」と名付けられました。そして、夫々の嶺に一人ずつ仙人が住み、其の山を治めておると言い伝えられてきたのです。


然し、その実 治めておるのは仙人ではなく、宴が好きな 八匹の鬼でありました。


名は『八仙角』。


纏め役は、「花筏」という鬼でした。一番の老巧で、気難しい鬼だったといいます。また、その厳格さと裏腹に、平和主義者でありました。

領土争いの絶えぬ山で育った花筏は、毎日沢山の命が奪われていくことを嘆き、新しい平和な山を自分の手でつくろうと考えたのでした。


花筏は先ず、仲間を集めることにしました。


初めに出会ったのは、幼くして村から追放された、二匹の鬼でした。荒んだ心で物事を捉え、慈しみの心を知らずに生きておりましたが、花筏と草花を育てる中で心を癒していきました。


美しい蜜柑の実を成らせた鬼は、「七宝柑」

数多の米をつくった鬼は、「五色米」

と名付けられました。


七宝柑は明るく伸び伸びと、五色米は優しくおおらかに育ちました。


次に出会ったのは、捨てられた赤子でした。

まだ生後間もない様子であるにも関わらず、大きな角をこさえた鬼子でした。花筏は子育てなどした事がありませんでしたが、七宝柑や五色米と共に沢山の愛情を注ぎました。好奇心旺盛で挑戦心のある鬼子は、よく学び、よく育ち、甘く熟れた野苺を育てました。


掴みどころが無い性格で、ぐんぐんと高みへ登ってゆくその鬼は、「苺雲」と名付けられました。


次なる出会いは、苺雲が運んできました。

谷底で双子の鬼子が村を追い出され、泣いておったそうです。

片方はよく泣き、片方はよく笑う鬼でした。

仲間が増えたことを喜び、皆は宴を開きました。特に苺雲は、歳の近い二匹とすぐに仲良くなりました。


泣きながらも立派に育ち、大きな松を育てた鬼は、「天泣松」

からりと笑い、真っ直ぐ天に伸びる竹を育てた鬼は、「天晴竹」

と名付けられました。


二匹とも助け合い、心の優しい鬼へと育ちました。


翌年、川に溺れていた一匹の鬼子と出会いました。川の近くにいたところを、誰かに突き落とされたといいます。強がりな鬼でした。


その悔しさからか、草花は育てず、泳ぎの練習ばかりしておりました。そんなある日、足元に美しく光る苔が生えていることに気がつきました。普通なら苔も蒸さない様な枯れ地に、この鬼が川の水を運んでいたのでしょう。


その鬼は、「真珠苔」と名付けられました。


その晩も宴は開かれ、七匹の絆はまた深まっていくのでした。


真珠苔は、真面目に賢く育ちました。


閑話休題、同じ時期の拾い子で もう一匹 花筏が手を焼いていた鬼がおりました。


その、黒い鬼と出会ったのは、夜半よわの冬。玉響たまゆらの出来事でありました。何処からやって来たのかも分からぬ其の鬼子は、真っ赤な眼で刺すように見詰め、子どもとは思えぬ力でしがみついてきたのでした。


花筏がどうしたのかと尋ねると、鬼子は腹が減ったと言うのです。不憫に思った花筏は、食い物を恵んでやりました。すると、瞬く間にたいらげてしまうではありませんか。


もっと、もっと と呟きながら、鬼子は近くに生えていた林檎の木の方へ歩き出しました。実が欲しいのだろうと思った花筏は、高い場所に成った実を採ってやりました。しかし、鬼子はその実に見向きもせず、木の根を掴むと、その林檎の木に注がれた魔力を吸い取ったのでした。

魔力を吸い取られた林檎の木は、すぐに朽ちてしまいました。


これを見た花筏は、鬼子を叱りました。

そして、根から吸うのではなく、実を食えば何度も沢山食べられることを教えました。


それから鬼子は、枯らしてしまった償いにと、林檎の木を育てようとしました。

しかし、何度やっても上手く育たないではありませんか。鬼子は吸って枯らすことしか出来ない自分が、嫌で嫌でたまりませんでした。

反対に、いくつも花を咲かせ、実を成らせている皆を妬ましく思うようになっておりました。


そんなある日、いつも水をやっている場所に小さな芽が出てきました。喜んだ鬼子が皆にそのことを伝えると、皆も自分事のように喜んでくれるのでした。


荒んでいた鬼子の様子に気を揉んでいた花筏は、ほっと胸を撫で下ろしました。

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八仙伝 王水 @pinnsetto87653

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