第8話 リア・ベストリア
いつからだったろうか。皆が私をもてはやし、自分が最強だと思い始めたのは。
ダクネス・ロードルに人生で初の敗北を期した日から一週間。リア・ベストリアは寮の自室に閉じこもり、ベットの端っこにうずくまりながら考える。なんとなく、リアは自分の過去を思い出していた。
いつから私が特別な人間だなんて思ったのかは覚えていない。ただ、物心ついた時にはすでに周囲の人間からもてはやされていた。その内容は顔がかわいい、声がかわいい、強い、魔法の才能がある、など様々だ。
そんなことを物心ついた時から言われ続けていたら、当然自分は特別なんだ、と認識してしまう。それに実際私はあらゆる点において周りの人間よりも優れていた。容姿、剣術、魔法、何度も言うが本当に周りからは羨ましがられ、もてはやされた。そのたびに私の中の自尊心は大きくなっていった。いつしか私はみんなに褒められることに快感を覚えるようになっていった。
そんな日々を送っていたある日、私は母上からディオラ魔剣士学校に進学しなさいとの助言を受けた。
ディオラ魔剣士学校。
この学校はこの国の上位職『魔剣士』となる者を育成する学校だ。完全実力主義の学校であり治安はあまり良くないとのうわさだ。そうであるにも関わらず、母上がここを進める理由、それはベストリア家の威厳を保つためだ。それと同時に私が将来『魔剣士』となり、家を継ぐことが出来たらベストリア家の評判はさらに上がる。
そのことを理解した私はしっかりと承諾の意を伝えた。私が試験に落ちるとは一つも思わない。だって全てにおいて優れているのだから。
十五歳になり、私はディオラ魔剣士学校の入試を受けた。内容はとてもシンプルなものばかりだった。
女子の部の他の受験者のたちの魔法威力や模擬戦などを少しだけ見たが、やはり私の上を行くものはいない。私はこの学校の入学を確信した。
それから一ヶ月後、家には合格通知が届き、両親はとても喜んでくれた。友達も皆私を称賛し、もてはやした。そんな日々が入学まで続き、私はとても快感に満ちていた。
しかし、入学初日に開示された序列を見た私は思わず声を上げてしまった。
学年序列では私は6位。学校総合序列だと下から四番目であった。
なぜ?どうして?私がこんなに下の序列なわけがない。私は特別なんだ。あり得ないあり得ない!
その思考が私の脳内を埋め尽くす。
しかしどうやら決闘は今すぐに行うことができるらしい。
私はHRが終わった後、すぐに先生のところに行き、決闘の立会人を申し込んだ。対戦相手は序列一位のダクネス・ロードルただ一人。こいつは上級貴族であるロードル家の子息だ。
顔立ち端正で黒髪の男。身長もそれなりに高く、外見は正直言ってとてもかっこよかった。
だが、それと私よりも上の序列に立つことは関係ない。一位の座は私のものだ!
そう勇みながら私はダクネス・ロードルとの試合を開始した。試合開始直後、バックステップで後ろに下がった私は、今まであらゆる人物を一撃で戦闘不能にしてきた雷魔法『
「喰らいなさい!雷閃光!」
今までこれを受けて耐えられた人はいない。木剣を構えたまま反応もできていないダクネスを見て、私は勝利を確信した。
やはり私が一番だ。やはり私が特別なんだ。魔法に反応すらできない有象無象が私よりも上の序列なわけがなかったのだ。
だが、そう思えていたのは一瞬。私の魔法に反応すらできていないと思っていたダクネスは、右手を前に掲げると
「
そう呟くと手のひらに真っ黒な球体を出現させた。そして信じられないことに、私の雷閃光はその球の中に吸収された。
何あの魔法?私の全力魔法が消された?どうして?なぜ?
私の心はパニくり、慌ててまた魔法を撃ち込んだ。しかし、またしても吸収されて終わる。私の心のはどんどん焦りが広がり、魔法を撃って撃って撃ち続けた。そのたびにダクネスは魔法を吸収し、徐々に近づいてくる。
ダクネスが一歩また一歩と私に近づいてくるたびに、私の心の中には感じた事のない得体のしれない感情が沸きあがってきた。
"恐怖"
今になって思ったことだが、あの時の感情は恐怖のようだ。あの心臓を掴まれているような感じ。試合中に何度も感じたそれは着実に私の心を蝕み、焦りを促した。私は叫びながら同じ魔法を放つという行為しかできなくなり、目の前まで近づいてきたダクネスに一本を取られ、人生初の敗北を期した。
負け…た…?この私が?どうして?なぜ?私はただカタカタと震え、立っている事しかできなくなってしまった。
決闘終了後、ダクネスは私のもとに来て寮へ戻ろうと言ってきたが、恐怖におびえる私にとって、悪魔がやってきたように感じた。慌てて謝り、思わず泣き出してしまった。それ程私の心は壊れてしまっていたのだ。
しかし、私を怒鳴りつけるかと思ったダクネスはなんと優しく謝ってからではないか。そのことに恐怖も少しだけ薄れ、しゃくりあげながらも私はダクネスについて行った。
それから一週間、私はずっと部屋に閉じ籠ってボーっとする日々を送っている。
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