第7話 闇魔法

「それでは、第一回決闘を始める。位置に着け」


 俺たち一年生は皆体育館に集まっていた。俺に決闘を申し込んだ三人の試合を見るためだ。俺は木剣を正眼に構え、相手——リア・ベストリアのことを睨む。対してリアは木剣をダランと垂らし、俺のことを睨んでくる。どうやら剣を使う気はないようだ。


「では、試合開始!」


 その合図とともに、リアは一度バックステップで俺から距離を取った後、魔法をぶっ放してきた。


「喰らいなさい!雷閃光らいせんこう!」


 見た感じ、リアの魔法属性は雷。黄色い閃光が一直線に俺に向かって飛んでくる。その魔力密度は中々高く、並の人間がまともにくらったら一撃で感電してしまうだろう。そのことを感じ取った周りの同級生は皆一様に息をのむ。


 しかし、この程度の魔法、俺にとってはどうということもない。俺は慌てず闇魔法を展開し、防御した。


吸魔弾ブラックホール


 俺が手のひらを前にかざすと、そこに真っ黒の球体が現れた。すると、俺に直撃するかと思われたリアの雷魔法は真っ黒の球体に吸い込まれる。


「は?」


 この魔法は闇魔法の初級魔法、吸魔弾だ。俺はかっこよくブラックホールと呼んでいる。この球体を中心に半径一メートル以内の全ての魔力を吸い尽くし、俺に供給するという魔法だ。その際、俺の魔力は吸収されることはない。

 "闇"とは全てを飲み込む漆黒。故に、闇魔法を防御として使えばすべてを吸収する最強の盾となる。


 この魔法が使える時点で俺に魔法による攻撃は効かない。そのことを理解できる者は今度は物理攻撃、すなわち木剣を使って攻撃してくるはずだ。

 しかし、リアは自分の魔法が消えてしまったことに焦りを覚え、何度も何度も同じ魔法を放ってくる。そのたびに俺はブラックホールを使い、攻撃を無効化する。


「アアァァァァッ!こ、この!この!この!このこのこの!」


 叫びながら同じことを続けるリアに飽きた俺は、ブラックホールを展開しながら歩いて近づき、そして、リアののど元に木剣を突き付けた。リアはカランコロンッと木剣を落とし、少し震えているようだった。


「ダクネス・ロードル、一本!試合終了」


 僅か五分ほどの戦いだった。


「ハァ…ハァ…ハァ…」


 アメリア先生の試合終了の合図がなる。リアは絶望の表情を浮かべ、カタカタと少し小刻みに震えていた。


 周りの生徒たちはヴォイドも含め、皆呆気にとられたかのような顔をしている。俺に決闘を申し込んでいたであろう、名も知らぬクラスメイトに向かって言った。


「次の相手は誰だ?早く試合を始めよう。時間がもったいない。だが一つ忠告しよう。俺はさっきの様な雑魚には興味がない。あいつと実力の差がさほどないのなら、決闘は取りやめろ」


 決闘をすること自体めんどくさかったので俺は敢えてこの様なエラそうな口調で挑発する。さっきの試合は全員見ていた。きっと俺と戦おうとする中途半端な輩はいないだろう。


――と、思いきや。


「いいや。俺は取りやめになんかしないぞ。俺はマグナス・ルーン。さっきの女よりも序列は高い。実力も高い。お前よりも強い。俺の踏み台となってもらおう」

「はぁ?」


 何だこいつ。序列が俺より下のくせに俺よりも強いだぁ?それは俺のプライドが黙っちゃいない。


 マグナスは俺を鋭く睨むと、木剣を掴み、正眼に構えた。リアとは違い、隙のない剣士の構え。それに対して俺も木剣を正眼に構え、マグナスを睨む。


「それでは、試合開始!」


 両者とも睨み合ったまま動かない。隙を窺っているのだ。しかし、一分ほど睨み合っていたら、業を煮やしたのかマグナスが突っ込んできた。


 姿勢を低くし、鋭く深く踏み込んでくるマグナス。そして俺の胴に向けた一閃。しかし、この時もまた俺は慌てない。一体何回剣聖の太刀を見て来たと思っているんだ。マグナスの太刀も悪くは無いが遅すぎる。


 俺はマグナスの薙ぎ払いを綺麗に受け流すと、返しの動作によるカウンターを叩きこんだ。


ボキッ!


「ぐへぁ!」


 嫌な音が鳴り響き、マグナスは木剣を離してうずくまる。まったく、敵を前にしてうずくまるとは何事だ!剣士として成ってない!そんなことを剣聖の前でしたらもうすでに百本は骨が折れてる。


「ダクネス・ロードル、一本!試合終了」


 俺はうずくまったままのマグナスの耳元に向かって囁いた。


「お前は俺よりも強いのではなかったのか?はっきり言おう。お前の太刀は遅すぎて話にならなかった。その程度の能力で俺よりも上だ、などとは二度と語るな」


 わき腹を抑え、うめいているマグナスにどれくらい響いたかはわからないが、もし聞いていたら、心が折れるような言葉を放つ。自分でも性格悪い、というか生意気というか、なことを言っていることは分かっている。だけど俺よりも上とか言いながらめちゃくちゃ弱いんだから腹が立ってしまう。こういう輩を黙らせるには相手の心を折るのが一番手っ取り早いのだ。リアなんか、もうすでに放心状態。まだなんか震えているし。


「さて、もう一人ほど俺に決闘を申し込んだ奴がいたと思うが…試合はしなくてもいいのか?」


 俺は敢えてそう問いかける。その問いに答える人は誰もいなかった。


「序列が本当の実力順だということが分かっただろう。これからは清是鍛錬し、上を目指して行くことだ。予定よりだいぶ早くなったが本日はこれで解散だ」


 そう言うと、アメリア先生はさっさと体育館から去っていった。しばらくその場にとどまっていた生徒たちだったが、一人また一人と寮に戻っていき、最後に残ったのは俺、リア、マグナスの三人だけだ。


 俺はリアのもとへ行き、さっさと寮に戻ろう、と誘った。


「ヒ、ヒィィィィ!やめて!ごめんなさい、ごめんなさい、何でもするから許して!うあぁぁぁぁん!」


 と言い、泣き出してしまった。めんどくさい。俺には泣いている女の子の対処法が分からなかったため、頭をかきながら謝罪の意を伝える。正直言って何が悪かったのかは分からないが。


「え、えっと、その、すまない。怖がらせてしまって。もうしないから一緒に帰ろう?」


 するとリアはしゃくり上げながらも俺に大人しくついてきた。戸惑いながらも俺はそのままリアを連れ、寮に戻った。マグナスは放置しておいた。なんか生意気な口調で俺に楯突いたくせに、弱かったから腹が立ったからな。

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