第4話 模擬戦

「えー、それでは魔法のテストを始めていきたいと思います。攻撃魔法の方はこちらの列に、それ以外の方はこちらの列に並んでください」


 教師と思われる男性がステージの上からそう呼び掛ける。男性はどうやら音魔法の使い手のようだ。魔法によって声を拡張し、マイクを使っているように聞こえる。


 俺の闇魔法は攻守どちらにも使えるのでとりあえず攻撃魔法の列に並ぶ。ここでは魔法の威力を見て合否を判定するらしい。全力で頑張ろうと思う。


 それから俺は順調に試験をこなしていった。魔法テストでは試験管、ギャラリー共に驚かし、基礎体力試験では父親に剣術を鍛えてもらうと共についてきた筋肉、俊敏さを活かし高得点を叩き出した。


 そして最後の模擬戦。俺はなんとヴォイドと対戦することになった。


 格技場で向かい合い、剣を向ける俺たち。周りには見物の試験者と試験官がいる。


「それでは、試合開始!」


 その声と共に試合の火蓋は落とされた。俺は正眼の構えを取り様子見をしようと思った。直後、ヴォイドは俺に向かって深く踏み込むと鋭い横薙ぎの一線を放つ。


 その速度は常人には目で追うことすらできない速さだった。しかし俺は剣聖とすら言われた実の父親からの特訓を約十年以上も受けてきた。そんな俺が今更ヴォイド如きに負けるわけがない。


 俺は完璧なタイミング、角度でヴォイドの剣を受け流す。周囲はおおっ!とどよめくがまだ試合は終わっていない。そこからは怒涛の剣撃の始まりだった。


 袈裟斬り、胴打ち、斬り上げ、突き、フェイクからの横薙ぎ。


 すさまじいスピードで繰り出される連撃に、息継ぎをするタイミングすらも間違えることのできない連撃。互いに一つも妥協せずに勝利をつかむためだけの試合。周囲はいつの間にかひっそりとし、格技場には木剣と木剣がぶつかり合う音だけが響き渡る。


 正直俺はとても驚いた。まだまだ未熟とはいえ剣聖を師事する俺を相手に、ここまで互角な戦いをするなんて。俺は正直平民出であるヴォイドのことをなめていたのかもしれない。いや、自分の力に己惚れていた。


 神の気まぐれによって転生し、最強の闇魔法を授かり、剣聖と謳われる父親に剣を指導してもらう日々。何もかも恵まれた俺はだんだん自分の力を過信しすぎていたようだ。だから今もぎりぎりの戦いを興じている。仕方ない。自分のため、ヴォイドのためにも俺はここで本気を出すことにした。


 ヴォイドに攻撃を仕掛けるスピードをさらに上げる俺。徐々にスピードを上げていく俺に対し、初めは付いてこれていたヴォイドだが、徐々に徐々に俺の連撃についてこれなくなっていく。そして―――。


「ダクネス・ロードル、一本!試合終了!勝者、ダクネス・ロードル!」


 ヴォイドが持っていた木剣を勢いよく跳ね除け、のど元に木剣の剣先を当てた俺は

試験管の試合終了の合図とともに、剣を下ろした。


 試験管に一礼し、格技場を出た後、全身汗だくになったヴォイドに握手を求められた。その手は何度も豆が出来潰れ、分厚くなった剣士の手だった。


「素晴らしい剣でした、ダクネスさん。僕はかなり剣には自信があったのですが…完敗です」

「お前の方こそ良い剣だったぞ?まぁ、俺の場合環境が特殊だったからな。当然といえば当然だ」


 ヴォイドの手を握り返しながら俺は言う。貴族の体面を守るため少し偉そうな口調になってしまったが…大丈夫だろう。


「僕はヴォイド。もし二人で入学できたその暁にはぜひよろしくお願いします」


 まぁ、あなたは合格するでしょうけれど、と言い微笑むヴォイド。俺もそう願いたいものだ。


 握っていた手をほどき、この場に用がなくなった俺はさっさと自宅へ帰るべく早々に、その場を後にした。


◇◆◇◆


 後日、自宅に主席合格通知が届くと父親はまたしても俺を呼びつけた。例の如く応接間へと行くとそこにはすでに父親の姿があった。向かいの席に座るように俺を促すと、父親は話を始めた。


「まずは合格おめでとう。まさか正規ルートで合格するとはあまり思っていなかった」


 合格出来なかったら裏口入学をさせるつもりだったんだ、とあまり人には言えないことを俺に告白する父。


「純粋に合格を喜びたいがその前に。お前は一体何をしたんだ?」


 父親は先ほどの優しげな顔から一変、鋭い眼光で見つめてくる。それもそうだろう。今まで親の前では一度も闇魔法を使ってこなかったのだから。


「私が使うことのできる魔法と父上に鍛え上げられた剣術を使って主席合格いたしました」

「お前は魔法が使えなかったはずだが・・・今まで実力をひた隠しにしていたと?それはなぜ、なんのために?」


 立て続けに質問を浴びせてくる父親。それらの質問に俺は一つずつ答えていった。


「まず、私の使うことのできる魔法ですが、それは闇魔法です。この魔法は一部の文献に存在が少し書かれているだけの魔法であるため、公に使ってしまえば問題になると思い、使用を控えさせていただきました」


 父親はふむ、と言ったきり何も言わなくなった。たっぷり五分ほど長考したのち、父親は俺に下がれと言った。


 言いつけに背くこともできないので、俺は大人しく部屋から出ていった。一体父親は何がしたかったのだろうか?不思議に思うこともあるだろうが、なぜもっと根掘り葉掘り聞いてこないのだろう?実の息子が闇魔法を操るんだぞ?驚きもしないなんて。


 父親の行動に疑問を抱く俺であった。

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