第2話 ダクネス・ロードル

 次に目を覚ました時、俺は人間の赤ん坊となっていた。目の前には母親と思われる人物と父親と思われる人物がいる。


「あなた!この子の名前はどうするの?」

「そうだな…。よし、この子の名前はダクネス・ロードルだ」


 これもまた転生者特典なのか、この世界の言語は問題なく理解できる。そうか、ダクネスか…。これまた中二病っぽい名前だな。だが両親は嬉しそうなので気にしないでおく。 しかし、俺は父親の隣で怪訝そうな目で俺を見つめるメイドの存在に気がついた。


「あの、ダクネス君が先ほどから一度も泣き声を上げていないのですが、もしや病気などではないのですか」


 メイドの一言に、両親の視線が俺に集中する。本能的にヤバイと感じ取った俺は大きな声で泣き声を上げた。


「もうっ。怖いこと言わないで頂戴!ちゃんと泣くじゃない」

「すみません、しかしどうしても気になったもので」


 メイドの視線はますます怪訝なものになっていく。あのメイド、結構鋭いな。今後変な事をしないように気を付けよ。


◇◆◇◆


 俺の名前が付けられてから十四年、俺は両親からの愛を一身に受け、すくすくと育っていった。たまに前世の親を思い出し、かなしくなったりもしたが。

 また、俺は上級貴族の三男、ということが分かった。上に二歳年上の兄と四歳年上の兄、一歳年上の姉がいるという事も知った。だが、兄姉きょうだいたちからは両親からの愛を一身から受ける俺に嫉妬の目を向けた。そのため、兄弟関係はあまりよろしくない。


 そんなある日、父親から呼び出されていた。上級貴族である父親は強面の人で話す時には謎の威圧感が放たれている。だが会話の内容はいつも俺を気遣う優しい内容であり、俺を大切にしてくれていることが分かる。


 突然の呼び出しに応じ、応接間に行く。コンコンッとノックをし部屋に入ると、そこにはすでに父親が座って待っていた。


「ダクネスよ。これからお前に大事な話をする。よく聞きなさい」


 父親はそういい、向かいの席に座るように促した。


「実はな、お前のことをディオラ魔剣士学校に入学させることが決まった。この学校は全寮制であり、学費も生活費も免除される」


 すごく高待遇なことに驚いたが、父親の浮かない顔を見て不思議に思う。この条件下で何か不満なことがあるのだろうか?


「父上、なぜそのような浮かない顔をしているのです?」

「ここからが本題なのだがこの学校、実は完全実力主義の学校でな。いじめは頻繁に起こるは退学者は続出するはであまり行かせたくはないんだ。お前は魔法が何一つとして使えないだろう?だからすごく心配なんだよ」


 これを見越して剣術は達人レベルに仕込んでおいたが、とつぶやく父親。


 なるほど。そういうことか。つまりは何の力も持たない俺が実力至上主義の学校に通う事がとても不安、という事だな。まぁ、無理もないだろう。今まで俺は親の目の前で闇魔法を一度も使ってこなかった。周囲の人間の目に触れれば、大ごとになる事が分かり切っているからだ。しかし学園に通う中で実力を隠して親を心配させたくない。


「父上。安心してください。父上たちが心配するようなことには決してしません。安心して私を送り出してください」

「そんなに自信満々に言われてもな。心配な物は心配だ。だが貴族同士の体面上仕方ない。来年のことではあるが、もし何かあったらすぐに連絡する事。いいな」

「はい」


 しっかりと父親にくぎを刺された俺は素直にうなずく。そして、話は終了した。


◇◆◇◆


「いや~、今年の生徒は皆水準が高いですね」

「そうだな」


 魔剣士学院教頭、アトラス・ジン・ユクトリアが言う。それに対し頷くのは理事長のシンエイ・バル・コトリスだ。二人はそれぞれの生徒の入試結果を見ながら話を続ける。


「合格者は合計十人。二属性の魔法を操る神童『カール・マコイル』、水魔法が達人レベルである才女『イリス・ラクトリア』。その他にも合格基準を大きく超えたものが数人もいる」

「うむ。だがそれよりもだろう」


 そう言い、シンエイは一人の入試結果に視線を移す。そこには『ダクネス・ロードル』の名があった。


「そうですね。こいつは上級貴族の中でも名高いあのロードル家のものですね。父親のハイド様は強力な空間魔法を操り、また剣術も卓越しています。それ故に今まで入学してきた彼の子供は皆優秀な子たちばかりでした」


 アトラスはさらに言葉を連ねる。


「今回彼の息子であるダクネスが使った魔法は今までに一度も見たことがない謎の魔法。その魔法は威力は申し分ない。その上、ハイド様の才能をそのまま受け継いだかのような剣技。今まで以上の逸材です」


 アトラスは素直な賞賛を贈る。それに対してシンエイは小難しい顔をしながら言った。


「確かに素晴らしい逸材だ。しかしコイツの使う魔法を私は知っている。この魔法の属性は"闇"。将来は危険人物となり得ない。」


 扱いに困るやつだ。と、ため息をつきながら言った。

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