無碍の一道

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無碍の一道

 念佛者は無碍の一道なり。そのいはれいかんとならば、信心の行者には天神・地祇も敬伏し、魔界・外道も障碍することなし。 罪悪も業報を感ずることあたはず、諸善もおよことなきゆゑなりと云々。

(歎異抄第七条)



 人生の現実は、愚痴と怒りと不平不満に満ちた悲しい世界だ。

 まさに堪え忍ばなければ生きてゆけない世界なのだ。

 自分に襲いかかる災難や試練をどう処理していくかが問題になってくる。


 大きすぎる恐怖に晒されたとき、人は自分が生命の頂点だと思いあがっていた事を後悔する。


 そして目の前の恐怖にただ屈伏する。


 目の前の恐怖に対し、けっして目をそらさず闘うべきだ、という人もいるだろう。


 しかし、そうした抵抗すら無にしてしまうほどの圧倒的な、立ち向かう勇気すら奪われるほどの恐怖を感じているとき、人はどうすべきなのだろう。

 抵抗してもしなくても、結果は変わらないのなら、あるがままを受け入れるしかないのだ。

 どんなにあがいても、何も変えられない現実を受け入れるしかない。


「な、なんだこいつは」

「ば、化け物だ」

「ひっ」

 恐怖におびえた人たちが口々に叫ぶ。


 その人たちの前で、僕はゆっくりと立ち上がった。

 両手が僕の意思とは無関係に動いている。

 いや、たとえ自分の意思だったとしても、それを止めるすべはない。

 僕の意志に反し、両の拳が固く握られる。そして目の前の脅威を打ち砕くべく振りあげられるのだ。


 僕に襲い掛かってきた彼らは一様に顔をひきつらせて後ずさりした。

 そうせざるを得ないほど恐ろしいのだろう。

 彼らはとても怯えていた。

 無理もない。こんなことができるのは、彼らにとって怪異でしかないだろう。

 

「化け物!」

「み、みんな殺されるぞ」

「逃げろ!」

 そんな叫び声をあげて彼らは逃げだしていく。


 だけど、そうはいかない。

 僕とシンクロできる人を探し出さなければならないのだから。


 お、やっと僕とシンクロできる奴が現れたようだ。

 僕の試練をクリアできるかなあ。


(完)


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