第11話
いやぁ、困った困った。
俺は仕事人と言うお仕事をしているが、仕事をした後の廃棄物を始末する業者の爺いが引退すると言うのだ。
何でも後継者の育成に失敗したとの事で、先祖代々140年も続いた業界でも老舗の亡骸始末業をたたむと言う事だ。
爺いは貯めた金でフロリダに行き、悠々自適な余生を過ごすとの事だった。
気の早い爺いはアロハシャツにサングラス姿で喫茶店で俺と話し、浮かれた歩調で出て行った。
俺は非常に困った。
俺はこの爺とは懇意にしていて、格安の料金で始末してもらっていたのだが、他の業者では高い、高すぎるのだ。
亡骸の始末料が高すぎるのだ。
俺はあまり金を持っていない人間でもその悲痛な訴えを酌んで業界でも結構格安で仕事を引き受けるが、他の始末屋を頼むとただでさえリスクの割に利益が少なく、仕事の料金を値上げしないと、とてもやって行けないのだ。
まぁ、殺したら殺しっぱなしで良いじゃんとか言うおバカな奴は放って置こう。
余程事故か病気に巧妙に見せかけた死体でないと『事件』の出来上がりなのだ。
仕事をした後は証拠の写真を撮った後は(最近は亡き骸の一部を持ってこいと言う奴もいる。DNAとかいう奴で確かめるのだろうな。)亡き骸は誰にも見つからないのが一番なんだよ。
俺はネットなどで検索してみたが中々条件に合う業者は見つからなかった。
俺がパソコンの前で頭を抱えていたらテレビから這い出て来たおさだが何を困っているか尋ねて来た。
俺が『かくかくしかじか』(この意味が判らない人はお父さんかお母さんかおじいちゃんかおばあちゃんに聞いて見るかネットでググろうね。)と説明すると、おさだは心当たりがあると伝えて来た。
なんと!仕事した後の亡骸を買い取りしてくれる業者がいるとの事だ。
しかも、仕事した手でまだ魂が抜けていない亡き骸は更に高価で買い取ると言うのだぁ!
何という事でしょう~!
今までお金を払って始末を頼んでいたのに買取でお金をくれると言う!
これでもっと生活に苦しい人たちの依頼も聞けるかも知れない。
おさだに是非紹介してくれと言うと、買取の業者を呼ぶには少し大きめのテレビ、これは壊れていても良いとの事だが人の体を通す事が出来る程度のテレビが必要だとの事だった。
俺はリサイクルショップで32インチのジャンク扱いの薄型テレビを買って来てハコスカの後席に載せ、早速仕事に向かった。
次の週の晩に多少手強かったが2人組の外道を仕事に掛けた。
俺は現場にテレビを持って行き、おさだを呼んだ。
テレビからおさだと気難しそうな初老の男が出て来た。
買い取り業者の男は2つの亡骸を見下ろし、口を開けて中を覗き込んだ。
どうやら魂がまだ抜けていないらしいとの事。
これは高値で買い取ってもらえるかも、おさだが俺に親指を立てた。
次に買取業者の男は妙な木づちで亡き骸の後頭部を思い切りひっぱたいた。
亡き骸の口から何やら灰色の塊が転がり出て来た。
どうやらこれが魂らしい。
次に買取業者の男は、かなり昔のスタイルの天秤計りのような物を取り出して亡き骸の魂の重さを測っている。
重い方が良いらしい。
買取業者の男は頷いて、もう一つの亡骸からも魂を抜き取って重さを計った。
おさだがそっと手を伸ばして巧妙に魂が乗った皿に人差し指を乗せて重さを足している。
ナイス!おさだ!
買取業者の男は2つの魂を袋に入れて、亡骸をテレビに入れるとポケットから何かの相場帳のようなノートを出した。
買取業者の男とおさだが話すとおさだが俺を見た。
支払いは霊界ドル、霊界ユーロ、霊界円、霊界元などが良いかそれとも地獄界通貨が良いか、人間界ドルなどが良いかとの事だ。
もちろん人間界円での支払いを俺は要求した。
買取業者の男はしわくちゃの古い札で(俺には都合が良い)なんと、27万8249円と高額で買い取ってくれた。
買取業者の男は初めて少し微笑みながら、魂が邪悪な奴や体に贅肉が多い奴などは高価で買い取ると言う事だ。
なるほど…。
太らせてから仕事に掛ければもっと儲かるな…。
買い取った亡き骸や魂はどうするのか訊こうと思ったが、何か嫌な予感がしたのでやめた。
男はテレビに入って消え、俺はテレビをハコスカの後席に乗せ、おさだ助手席に乗せて鼻歌交じりに家に帰った。
それにしても亡き骸を買い取ってくれるとは凄く助かる。
俺は帰りのコンビニでおさだにプリンを3つと、更にプリンアラモードを買ってやった。
おさだはプリンアラモードを掲げてしげしげと見つめ、やがて感動して涙を見せた。
おさだは可愛い。
続く
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