第7話

夕暮れ時。

今日はカレーライスを作ろうと思い、色々用意した。

因みに俺はカレーは辛くなければ!という派である。

俺は辛口カレーに更に青唐辛子とタバスコと辛いラー油を仕上げに入れる。

青唐辛子がまるのまま入れてあり、いつ青唐辛子が口の中に入って爆発するのかワクワクしながら食べるのだ。


おさだは、いや、死霊全般が辛い物が苦手らしく、俺が獄辛カレーを作ると暫く近寄らない。

口が辛いと言ってキスさえ許してもらえないのだ。

暫くおさだの為にカレーをバーモントの甘口のルーで作ったが、そろそろ辛いカレーの禁断症状が出て来た。

今日明日はおさだとのキスを諦めて俺は激辛カレーを作っていた。


仕上げに青唐辛子とタバスコと辛いラー油をぶち込んで焦げ付かないようにお玉でかき混ぜながらしばらく煮込んでいた。


まだ陽が落ち切っていないのにおさだが少し慌てた様子でテレビから這い出してきた。

キッチンの俺に近づくとおさだが目と鼻を押さえて後ずさった。


おさだ、ごめんね、そろそろ辛いカレーの禁断症状なんだよ、と俺が言うとおさだが身振り手振りと不完全なテレパシーで、俺に、昔お世話になった人がおさだに恋人が出来た事を知り、近くを通りがてら遊びに来るとの事だった。


いきなり困るな~と思いながらも俺は一応部屋の中を片付けた。

しかし、夕食時にいきなり来るなんて、常識を知らないなと、片づけを済ませた俺はお玉で鍋をかき混ぜながら思った。


やがてテレビからガシャガシャと音が聞こえて大昔の鎧姿の男がテレビから出て来た。

俺はおさだの知り合いと言う事で鍋をかき混ぜるのを中断して来客に頭を下げた挨拶した。

来客の鎧の男は俺のお辞儀が気に入らないのか少しむっとした顔で俺を見つめた。

おさだが慌てて俺の頭に手を当ててもう少し頭を下げるように頼んだ。

なんか偉そうな奴だなと思いながら俺はもっと頭を下げた。


男は気を取り直したようで俺が勧めた椅子に腰かけた。

とりあえず、コーヒーを淹れて男に出したが少し熱かったようで顔をしかめてコーヒーカップから手を離してフーフーとコーヒーカップを吹いていた。


おさだは男と何やら死霊同士の会話をしていた。

そして男は腕組みをして俺を見た。

なんか、遥か昔に娘さんを俺に下さいと言いに、ある女性の家に行った時の様な気まずさを感じた。

何か根掘り葉掘りおさだに俺の事を質問しているらしい。

俺はなんだか少し腹が立って来た。

お前はおさだの父親かよ!と文句を言いたくなった。

そしておさだの通訳で男は俺の学歴とか仕事とか収入とか、このマンションはいくらで買ったのかとか聞き始めた。

おさだの事をどう思っているのかとかまで聞き始めた。

一通り答えた後で男は苦虫を噛み潰したような顔で少し冷めたコーヒーを飲んで小さく頷いた。

なんだこいつ、まるでおさだの父親気取りじゃないか…。


そして、おさだが少し困ったようなしぐさをして俺を見た。


おさだは俺をキッチンに連れて行き、男は腹が減ったが俺が何やら鍋に火をかけて作っているのでそれを食べたいと言っているそうだ。

まぁ、別に構わないが、死霊は辛い物が苦手な人が多いんじゃないか?とおさだに尋ねたら、男はどうしても食いたいと腹が減っているとおさだに伝えたらしい。


俺は少し意地悪な気分になって出せるものはこのカレーしか無いよと言った。

おさだは男の所に行き、少し辛いけど大丈夫か聞いた様だ。

おさだは俺の方に戻って来て少しくらいなら辛くても平気だとの事だった。


俺は皿にカレーとごはんをよそった。

少し意地悪な気分がして、鍋の中の青唐辛子をお玉で集めてカレーに入れた。

青唐辛子特盛り激辛カレーを召し上がれ。


カレーは食べないおさだはコーヒーを飲んでいる。

俺は青唐辛子特盛りカレーを男に、そして自分の分は普通によそったごく普通の辛いカレーを置いた。


俺と男はいただきますと手を合わせてカレーを食べ始めた。

男はスプーンでカレーをすくい、少し匂いを嗅いだが、俺はむしゃむしゃと美味しそうに食べ始めたのを見てスプーンを口に入れた。

男のスプーンには青唐辛子が2本、カレーにまみれて乗っていた。

男はスプーンを口に入れ、暫くもぐもぐと噛んだ後でおさだに親指を立ててまたもうひとすくいカレーを口に入れた。


ケケケケ、このカレーの辛さはおよそ3秒後に襲ってくるのだよ。

俺はニヤニヤしながら美味しそうにカレーを食べて見せた。

実際に久々の激辛カレーは旨かった。

そして男の口にカレーの辛さが襲い掛かった。

男の血の気が無い顔が青くなり赤くなり紫になり男は歯を食いしばり我慢していたが、やがて耐え切れずに激しく咳き込んでいた。

俺はそれを見ながらにやにやとしながらカレーを食べた。

男は俺を見て、妙な競争心を燃やしたのか、我慢して俺の顔を睨みながら更にカレーを食べた。

俺と男は互いの顔を見ながらカレーを平らげた。

青唐辛子特盛のカレーを残さず食べた事は誉めてやろう。

俺は大きなコップに水を注いで男に差し出した。

男はごくごくと水を飲み干した。


カレーを食べ終えた男は俺に礼に頭を下げておさだにさよならと手を振ってテレビに入っていった。

おさだは身振り手振りでなんとか俺は合格で付き合う事を赦すと男が言っていたと伝えた。

…随分偉そうな男だったな。

だが、激辛カレー青唐辛子特盛を平らげた根性は誉めてやろうと思った。


ところで俺は男の名前を聞きそびれていた。

おさだに尋ねたら、紙と鉛筆を持って来て男の名前を書いた。


『平将門』


………ええええええ!

怖い怖い怖い!祟りが怖い!怖い!

俺が意地悪して青唐辛子を特盛にしたのがばれたら!

怖い怖い怖い!ひぃいいいいい!

祟りじぁ!将門様の祟りじぁあああああ!


おさだは慌てる俺にどうしたのか訊いてきた。

俺は身振り手振りで平将門は、いや平将門様は菅原道真、崇徳天皇と並び立つ日本3代怨霊と恐れられていると伝えた。


おさだは3人共知り合いで昔から仲良くしていると答えた…。


…おさだを怒らせない様に気を付けよう…。






続く

 

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