第4話
ある春の日に珍しくおさだが午前中にテレビから抜け出て来た。
家でパソコンに向かい書類仕事をしていた俺は、おさだが大きな麻袋をテレビの中から引っ張り出そうと四苦八苦しているのを見て手伝ってやった。
おさだは洗濯機を貸して欲しいと身振り手振りと不完全なテレパシーで言って来た。
俺はどうぞどうぞと言うと、おさだは麻袋から大量のあの白い服を取り出して何度も往復して洗濯機に入れた。
白い服の全部に落としきれない染みが付いていた。
普段は近くの川で手洗いで洗濯していたのだが中々汚れが落ちないとおさだは伝えた。
成る程…あの染みは犠牲者の血とかかな…。
洗濯機の使い方などを教えて洗剤を入れ、ボタンを押して洗濯機が動き出すと満足したおさだはコーヒーを飲みながら俺とテレビでユーネクストやネットフリックスやプライムビデオで映画を楽しんだ。
おさだはアクション映画が好きなようで、ジョン・ウィックが今はお気に入りだった。
今日は春一番が吹いているようで少し風が強かった。
やがて洗濯が終わり、おさだが洗濯機の蓋を開けて白い服の一枚を取り出してチェックすると染みが奇麗にとれたようで満足したようだ。
ベランダにある洗濯機の横で少し強い風に着ている服と髪の毛を強い風に嬲られて体をフラフラ揺らしながらおさだは俺に親指を立てた。
そして、壊れて小さい音しか出ないラジオのようなキーキーした声で鼻歌を歌いながらおさだが強い風に嬲られながら服をポールに掛けながら干していった。
やはりなんだかんだ言って女性なんだな服の汚れを気にしていたんだなと俺は微笑ましく思いながら窓際のパソコンで書類仕事を再開した。
その時、微かな悲鳴が聞こえてベランダを見るとおさだの姿が見えない。
あれ?と思うとベランダの手すりにおさだの手が捕まっていた。
おさだが風に飛ばされたらしい。
俺は慌ててベランダに出ておさだの手を掴んだが、軽いと言っても人体を引っ張り上げるのはきつかった。
おさだは洗濯機から出してまだ濡れた白い服を別の手で掴んでいたのだ。
おさだに重いからその服から手を放せと言ったがおさだは顔を横に振った。
どうやら服を落としてまた汚れるのがいやらしい。
おさだにお前は空を飛べたりできないのかと言うと、またおさだは顔を横に振った。
おさだは空を飛べないらしい。
俺は握力に限界が来ている。
その時、俺が掴んでいるおさだの手がおさだの体の重さに耐え切れずにビューンと伸びて行き、おさだは微かな悲鳴を上げながら落下していった。
なんて事でしょ~う!
おさだ~!
おさだは腕が伸びて落下して行き、マンションの横の自転車置き場の通路に着地した。
びっくりして手を離した俺。
伸びた腕が縮小して行っておさだの体に戻って行った。
おさだは一目散にマンションの入り口に走って行った。
おさだのすぐ横でおしゃべりに夢中だった4人の主婦のうちの1人がおさだを指差して悲鳴を上げたが、他の3人にはおさだが見えないらしい。
しばらく経ってからドアのインターフォンが鳴った。
洗濯した服を握りしめて激しく息を切らしているおさだが立っていた。
俺は直ぐにドアを開けておさだを中に入れた。
エレベーターの使い方が良く判らないので階段を一気に駆け上って来たとおさだは息を切らせながら俺に伝えた。
どうやら、おさだは空を飛べない、強風に飛ばされる事が有る、体が異常に伸びる時がある、おさだを見れる人と見えない人がいる。
…メモして置こう。
続く
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