第1話:Room1
Room1。勇気を捻出して入室した先は一見すると変り映えのしない景観が広がり拍子抜けした。この第一歩が重要な意義を持つことは理解出来たので床面積の許す限り探索してみるが、今後の生活に役立ちそうな手掛かりは存在しない。仕方ないから思い出したくない過去でも回想して時間を潰そう。先日久々に訪れた心療内科の壁紙は無感動な白から暖色寄りに衣替えし、学生時代に舌戦を交わした腐れ女医は誠実そうな好青年へと変貌を遂げた。「どうしましたか?」「……何も無い空間に行きたいんです」何もないですけど、の一言で終わらせるのは診察料に見合わないというメタ認知に加え、最近は克服したと思えていた他者製の有形の痛みが惹起し、腕の谷間から透明な涙が流れてくる。露出された上肢の悲劇に医者は顔を竦め、カウンセリングの後に自殺には不十分な量のエビリファイを処方された。第一印象では四国犬、第二印象では三羽の蝙蝠、第三印象では俯瞰した木々のようにも見えますねと述べた結果、そんな説明は求めていないと批判されたロールシャッハテストを適当に済まし、疑似科学に心を痛めた十年前を振り返りながら、続きのあるらしい部屋の奥へとあたしは向かった。
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