ペアノ・ルーム

沈黙静寂

第1話:Room0

 Room0。おかえり、これが私の孤独な世界。1以上の世界は目障りで耳障りで肌障りな人種に塗れていて、私の知覚過敏な神経を縢り縫いして止むことが無い。彼女達はその規則的で短絡的な人生に意味があると思って人を愛し人を憎み人を再生産するのだろうが、少し言葉数が豊富だからと言って何か勘違いしているだけなのだろう。口から吐き出した音量とファジィな真理値は比例するように映えるが実際は空即是色色即是空。物語の文字数は多ければ多い程0に近似されることを自覚すべきだった。あるいは気付かない振りをしているだけかもしれないが、その気付かぬ演技にも数の発明以上の意義は無いので悟りの境地を開いて慎ましく生活するのが及第点と言った所だ。私が生きたいのはそういう限りなく0に近い場所、誰もいない立方体の中で累積したトラウマを治癒していたい。あぁここが漸く見つけた空集合のサンクチュアリ、あぁ癒えていく癒えていく家テ逝くイエテイクieteikuあぁあぁ……それからというもの時が経つのを忘れてこの部屋で呼吸をしていた。恐らく死に至るまで最も幸せな瞬間だっただろう。しかしある日、愚かにもこの純白に黝ずんだ文字を浮かべた私は彼女の記憶を置き去りに、扉の向こうへ行きたくなってしまった。

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