第12話:Room12

 Room12。部屋に入ると、如月と弥生がセックスしていた。二人共視えないので直ぐには分からなかったが、弥生のひぃひぃという喘ぎ声と如月辺りで軋む床から動きの意味は想像出来た。視えるだけで二人の部外者が居るにも関わらず、ただでさえ狭い料簡を更に狭めてお互いの時間を垂れ流す。観客の一人は水零、もう一人は何度目かの初めましてを捧げる歳子としこという華奢な女性。「……お取込み中でしたかね?」それはさておき、と前置きする勇気は無く訊けば「さっきからあの調子。弥生の単独プレイかと思ったら歳子さんから如月の存在を知って、まさか共同作業だったとはね」多少頬を赤らめる水零の解説に悪戯心が働く。「水零さんは恋人とか居ました?」「この状況で気になること?まぁ昔は居たし今も近くに居る気がする」そう告げる視線の照準は定まらないので心の距離を話題としているのだろう。音声中心主義者としてはどうしても水零との話に傾倒するので、意識的に歳子のインタビューに切り替えれば彼女は聴覚のみを能力の埒外とし「おたくの描く『聴く』の字には薄らと見覚えがあるわ」期待通りの論理が返り、一連の流れから視えてくる法則があった。それはこの空間を利用する者の登場頻度。「あたしが気付いた中では如月はRoom4、6、8、10、12、弥生は6、9、12、皐は5、10、水零は6、12、歳子は12の部屋で現れている。つまり如月は二の倍数、弥生は三の倍数、皐は五の倍数、水零は六の倍数、歳子は12の倍数の番号に登場出来るという法則が考えられる。また決まってあたしが入室する時には既に全員が集合している」

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ペアノ・ルーム 沈黙静寂 @cookingmama

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