第10話:Room10

 Room10。如月に触るつもりで入った部屋では皐が等身大フィギュアのような棒立ちで構えていた。「また会えたね。何で逃げたの?」ぐらぐらと漂う威圧感に腰を引きつつ、二度と訪れないだろう貴重な出会いに感謝して「仲間を呼びたかったんです。ここには来られませんが」水零が居れば視覚的な気不味さは避けられたかもしれないと想像した。相性は悪いけれど隅で丸まっていた如月を叩き起こし、「もっと優しくして」と描く眠気眼に皐の存在を伝え、右手を如月に、左手を皐に配分しながら会話の成立を狙う。ふと如月は皐に対しても舞台違いの悲恋を展開するのかと問えば「特に何も感じないわ。ここに人が居るの?」弥生の時とは違った反応を見せる。やはりあの女が特別なのか、如月が意味のある嘘を吐いているのか、感覚の問題なので各自の証言しか材料が無く推理に困る。「アタシは東京郊外の一人っ子として育った。背が高いことを理由に男子から冷やかされたけど、碧い眼をした幼馴染だけはアタシの傍を離れなかった。俗世で手に入れた唯一の宝物かな」皐の惚気話は中略しながら「それがどういう訳かこの真っ白な世界に来た。眠りの最中に運び込まれたのかもしれない」初めてこの地の住人の生い立ちを聞いた。「あんたも前世で弥生と縁があったのかもな」通訳に努めようと皐への興味を示さない如月が「早く次の部屋に行って。そうすれば弥生と会えるから」と生き急ぐ態度を尊重すれば「如月さん、気を付けて。アタシにはこの世界に潜む悪魔が視える」皐が何やら意味深な文章を書く。「……というのは冗談。一度言ってみたかったんだよね、こんな台詞」笑いながら笑い声が届かないのはやはり怖いが、異世界に眠る悪魔的な気配にはあたしも同意した。

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