第7話:Room7

 Room7。新たな登場人物を予感して「誰か居ますか」の連呼を添えた探索は今回に限り実ること無く、そういうパターンもあるのかと肩を撫で下ろす。当たり前が通用しないこの世界で常識的な点は部屋番号と時系列が対応すること、つまりあたしや如月達の記憶に恐らく矛盾は無いということだ。その文法に倣い大学時代の思い出を振り返れば、当然のように校内のベンチで独り飯を頬張るあたしにも唯一の友達が居た。彼女は第二外国語の授業で偶々隣り合い、偶々同じアニメを観ていて偶々最寄りも近かった。連絡先を交換してから時間割の合う日は一緒に登下校し、食材が余った時にはお弁当を二組用意して彼女に差し入れた。「有難う、気が利くねぇ」映画のチケットが余った時には双子の象徴性について語り合い、北海道行の格安航空券が余った時にはチーズケーキを食む唇が潤いを魅せた。彼女はいつも最大限の愛想を振撒くので、単なる同級生とは違った関係性の芽生えを期待していた。そんなある日、彼女が生協の前で見慣れない男と手を繋いでいる様が見えた。ジャック・ニコルソンとは似ても似つかない野卑な青年と彼女は口付けを交わした。そこで0の輪廻が脳髄に刻み込まれた。期末試験の時期になって気付いたが彼も同じ韓国語を履修していたらしい。呼び声には快く返答する彼女も、こちらから連絡を寄こさなければ心配のシの字を返すことも無く、美味しい思いをしていたのは彼女だけ、それ以降は彼女の姿を眼中に収めることは無かった。出会いに理由が無ければ別れに理由も無い、考えてみれば当たり前のことだ。

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