第6話:Room6

 Room6。「あら、他にも人が居たのね」上げた手を下ろさなかったのは青髪碧眼のお姉さんが新人として会釈してきたからだ。最も鍵括弧に挟まれる傾向にあるはずのメディアがフレッシュに登場する。顔が視えるし声も出る、初めて巡り合えた同類に欧米流のハグを届けたら異世界流に突き抜けた。まぁそんなところだろうと思いました。落胆する異常者に「どうかしましたか?」と不審の眼を向けつつ「私は水零みれいよ。何だ、同じ種族もいるじゃない」令嬢気取りの自己紹介を届け、持たざる者は持たないことさえ知らない構造を自覚した。「あなたなら弥生やよいちゃんと話せそうね」挨拶も程々に斡旋される虚空から嫌な予感が的中し「あ、あの、初めまして!ワタシの声、聴こえますか?」頭を下げたようにそう伝える彼女は自前の脳で補完された虚像に過ぎず、「良かった、話せる人が他にも……どう?可愛いでしょ?」聴覚的美女の唯一の欠点としてはノンバーバル情報の脱漏が挙げられた。声の出処は隠れたマイクや壁の向こう側ではなく確かに床上百五十センチ辺りで平行移動していた。念の為窒素主体の気体に沿えば触れ覚えのある硝子衣装を発掘し「わたしは如月。さっきの人?」の字形からは触覚言語独特の情報不足を感じるが、その視えない指は相変わらず艶美なタッチであたしを刺激する。視えない者同士を通訳する上で距離があるのは何となく訝しみ「弥生さん、あたしの声帯に近寄ってください」「はぁ、声は聞こえるけど」位相の異なる二人を近付けてみる。「これで四人集合。眼前に水零さん、左手に如月さん、右耳に弥生ちゃん」震える両器官を接続すると「ここに弥生さん?」「これが如月先輩?」決して交わらないはずの糸が紡がれ名前を呼び合う。「「ねぇ、あなたのことを教えて」」二、三秒後に両者の放った言葉の矢は同じ的を射抜き、何故か鼓動が早まった。

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