蛇神夫婦・白蛇の独白
そう言って白銀さまは、愛おしそうな眼差しで黒曜さまを見つめていた。その視線に少し恥ずかしそうに顔をそらす黒曜さま。
黒曜さまは、元々どこかの一族に祀られていた白蛇だったと言う。しかし、何時からか求めてもいない生贄を捧げられる様になりそれが苦痛だったと顔を歪めて話してくれたんだ。
『白い大蛇だった私は、人間たちに怖がられるのが嫌でね。とある屋敷の軒下に隠れて生活をしていたの。
けれど、あくる日その屋敷に住む人間に見つかってしまった。また、怖がられて酷い事をされるかもしれない。
そう思ったのだけど、人間は私に優しくしてくれた。嬉しかったわ。
亡くなった時も、悲しんでわざわざ供養塔を建ててくれた。……それから、そのお屋敷は豊かになったの。
「きっと白蛇の恩返しだ。白蛇は、蛇神になったに違いない」
喜んだ人間たちは、そんな風に言っていたわ。最初の頃は、私もそんな人間たちを微笑ましく見守っていた。
お供え物も欠かさず置いてくれて、命日には演舞まで披露してくれる様になり……その頃には、供養塔の横に立派な祠まで建てられていたわ。
でも、ある時その屋敷で不幸が続いたの。流行り病や事故でね。
偶然だったのに、人間たちは誰からともなく言ったわ。
「白蛇さまの祟りだ。怒りを鎮める為には、生贄を捧げる他ない」
って……私はそんなこと望んでなかったのにね。だけど、私の思いが人間たちに届く事はなくて、最初の生贄が捧げられた。
それからと言うもの、屋敷内で不幸が続く度。人間たちは私に生贄を捧げて来たの。それも、年端も行かない幼子たちをね。
私は悲しくて辛くて……でも、祀られているからその場を離れる事も出来なくて……自分の所為で殺される幼子をただ、見ている事しか出来なかったわ。せめてもの償いとして、幼子たちの魂を私の子として受け入れたけどそれでも何度も繰り返される所業に私の心は限界を迎える寸前になっていた。
いっその事、この人間たちを呪って邪神となり祓われた方が私や幼子たちの為なのではと考えた事もあったわ。
けれど、そう思っていたある時。祠の前に一人の少年が現れたの。
『白蛇よ。なぜ泣いている ? 』
彼はどこか、神々しくもありその眼は全てを見透かしている様だったわ。……私は、全てを彼に話したの。
聞き終わった、彼は大きなため息を一つ吐き出して
『邪な人間が、白蛇を穢すとはいい度胸だ。……対価は支払ってもらうぞ』
そう呟いた彼の眼は、とても冷たくて憎悪と殺意に満ちていたわ。その眼は、白蛇である筈の私が……蛇に睨まれた蛙の様に動けなくなるほど本当に恐ろしかった。
……その後、屋敷は謎の火災で全焼し住民は全員亡くなってしまったわ』
そう寂し気に呟いてから、黒曜さまは自嘲気味に笑った。……嫌な事も沢山あっただろうが、それでも最後の時まで屋敷の人間たちが目を覚ましてくれるのを黒曜さまは心の片隅で期待していたのかもしれない。
黒曜さまの表情を見て、私はそう思った。
『でもね。白銀と出会い結ばれて、私も今がとても幸せよ』
白銀さまの顔を真っすぐ見つめ微笑んだ顔に、私までドキッとしてしまう。そんな沢山の苦労をしてきたお二方だから、私の事を気にかけてくれるのだ。
一度冗談で、
「白銀さまって親戚の叔父さんみたい」
っと言ったら
『惠ちゃんの叔父さんか……ええよ ?
そん代わり、辛い事あったらちゃっと叔父さんに話してな ? 』
『こんなに可愛らしい姪っ子なら、私も大歓迎よ。私にも、悩み事とか聞かせてくれたら嬉しいわ』
白銀さまと一緒に聞いてた黒曜さまからもそう返されてしまい……今では、過保護で世話好きな蛇神夫婦に可愛がられている。なので、もし父に取り憑かれ呪われる様な事になったとしてもきっとこのお二方が黙っては居ない筈だと思ったんだ。
出来るだけ自分で対処しようとは思っていたし、大好きなお二方の手を患はせる事はしたくないと当時は考えていた。……でも、何かあれば助けてくれる味方が傍にいると思うとだけで心強いし安心できるんだ。
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