クズに付ける薬はない
ちなみに、父は私が高校生の時に癌で亡くなっている。正直悲しいとは、一切思わなかったし今も思っていない。
むしろ、清々としている。血の繋がった実の父ではあるが、あくまで生物学上の話だ。
私も弟たちも、母ですら父が死んだ事に安堵していた。上の弟は、父を相当憎んでいたし私も唯一嫌いな人間が父なのだ。
理由はたくさんあるが、兎に角暴言暴力は日常茶飯事だった。毎日家の中で怒鳴り声を上げていた程だ。
医者からは鬱と診断を受けていたらしいが、鬱病の薬として出されていたのを焼酎で飲んでいたのを見た時はもう駄目だなと改めて思ったのを覚えている。それに酔いに任せ、毎回私や母に暴言を吐いて来た。
「こん馬鹿おなごが……俺が貰ってやらねば、ずっと売れ残ってたくせによ。娘もお前さ似て出来が悪いし、卒業したら俺の同級生と見合いさせるからな」
大声で笑いながら言われて、私は正直キレそうになったが上の弟の方が一歩早く父の後頭部目掛けて飛び蹴りを食らわせたのだ。一瞬何が起こったか解らず呆けていると、激高した父が弟に殴りかかろうとしていた。
止めに入ろうと思うが、またしても私より早く曾祖母が父に近づき両腕を後ろで拘束する。何処からそんな力を出しているのか、曾祖母に押さえつけられ動けなくなる父。
すると、そんな父を弟が無言で殴りつける。何度も、何度も……でも、殴られている父よりも殴っている弟の方が辛そうな複雑な顔をしていたんだ。
私はたまらなくなって、二人の間に割って入ると弟を背中に庇う様にして父と対峙した。何か喚いていたが何とか落ち着かせて、二人を引き離す事に成功。
その後、家族会議を開いて父を隔離施設に送ろうと言う話も出たが家族の同意がいると言う話になると逆恨みされたくないと祖母が同意する事を拒否。もう、離婚させて母と上の弟だけでも逃がすかと思っていた矢先。
父の癌が発覚し医者から、余命宣告も受けたと母に聞かされた。罰が下ったんだ、私は心の底からそう思って歓喜したのを昨日の事の様に覚えている。
実の父親に対して酷い娘だと言う人も居るだろうが、これまで散々やらかしてきた人だ。同情の余地はもはや一ミクロンもない。
母が頭を五針も縫う大けがを負わされた事もあったし、可愛がってた愛犬が修学旅行中に突然死した時も……私の帰りを待つ事無くお金を出して市のゴミに出したとあっけらかんと言っていた。そんな父が余命を告げられたのだ。
喜びこそすれ、悲しむ筈などないだろう。そして、許されるのなら私も父の亡骸をゴミに出したいと本気で思ったものだ。
それから、私が高校三年生の三学期頃に父は余命よりも半年早く亡くなった。医者いわく、思いのほか癌の進行が早く手の施しようがなかったらしい。
最後は子供の様に泣いて、縋って死にたくないと騒いでいたが結局最後の最後まで母や私たちに対しての謝罪を口にする事は一度もなかった。だが、それで良かったと私は思う。
だって、謝られたところで許す気など一切なかったから……最後までクズで居てくれて良かったおかげで心置きなく奴の遺骨をゴミに捨てる事も出来た。
骨を一個だけだが、こっそりと骨壺から抜いて金槌で粉々に砕き残飯と一緒に出してやったんだ。骨が足りないと、成仏できない……いつか誰かに聞いた話。
だから、ずっと決めてたんだ。奴が死んだら、一個だけでもゴミに捨ててやろうって……成仏なんてさせてやるものか、天国にも地獄にも行けず永遠に彷徨い苦しめば良い。
最初は少し悩んだりもした。だが、間違っても奴に対する同情心からではない。
そんな事したら、取り憑かれたり呪われたりするのではっと危惧したからだ。呪いは、弱いものから影響を受けてしまう。
その為、母や曾祖母。猫や犬たちに何かあっては嫌だと思って躊躇っていたのだ。
でも、私には強い味方が居た。それは、我が家の土地と家屋を護る蛇神の夫婦だ。
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