死神から「生きてる亡者」と言われた話。

里 惠

穏やかな日常

 暖かな朝日が部屋に差し込む。しかし、季節は冬だ。

 寒さに身を震わせ、私は二度寝しようと腕の中で眠る愛くるしい黒い毛玉を抱き締めた。黒い綺麗な毛並みの猫……小豆は気分屋で怒りっぽいが、私に抱き締められるて寝るのは大好きで今も腕の中で喉を鳴らしてしがみついてきている。

 私も、この時間がたまらなく好きだ。しばらくして、今度は白いもこもこ毛玉の声で私は二度寝から起こされる。

 昨日物置で発見した、私のベビーチェアーに我が物顔で座るぬいぐるみの様な白い猫……麦が私をじっと見つめている。その下には、器用に前足で皿をちょいちょいっと動かす小豆もいた。


「……おはよう。ちょっと待ってね」


 ベットから起き上がり、ストーブの電源を点けてからキャットフードの入った瓶の蓋を開け二匹の前にある皿へ盛り付ける。

 

「私も朝食の準備しよ」


 猫たちがご飯を食べてる横で着替えを済ませ、私は一階へと降りると台所で朝食の準備を始める。味噌汁の入った片手鍋を火にかけ、冷蔵庫から作り置きのおかずが入ったタッパを取り出し小皿に分ける。

 そして、グリルに鮭の切り身を入れてコンロの火を止めた。味噌汁のいい匂いが部屋に充満する。


「あ、神棚のお神酒取り換えなきゃ」


 神棚と言っても、小さな観音開きの棚を改造した物だ。経机の様な造りの机の上に鏡と、その前に小さな鳥居とその両脇に白と黒の鹿を一体ずつ狛犬の様に鎮座させている。

 それと、昨日物置で発見した模造刀も神棚の前に置いていた。


「今日も見守っててください。

 神様もご無理なさらずに、いつもありがとうございます」


 手を合わせてと呟いていると、足に何かがすり寄る感覚がする。


「ん ? あ、むむさん……ご飯食べ終わったの ? 」

「にゃわん」


 振り返って見ると、白いもこもこ…もとい麦が私の顔を見て嬉しそうに尻尾を立てていた。


「あんたも神様を挨拶しに来たの ? 」

「んっ」


 頭を撫でてあげると気持ちよさそうに目を細める。着いて来る麦と共に、私はダイニングへと戻った。


「いただきます」


 出来上がった食事を机に並べ手を合わせる。味噌汁の入ったお椀を持ち、口をつけようとした時だった。


「うに゛ゃあああ ! に゛ゃあ、に゛ゃあ ! ! 」


 野太い猫の鳴き声が窓の外から聞こえてきて、私は玄関へと向かう。


「おはよう。そんで、おかえり大豆」

「に゛ゃ ! に゛ゃあああ ! 」


 私がそう言って声をかけると、キジトラ……大豆はより一層でかい声で鳴いた。雪の降る中を歩いてきて寒かったのか、炬燵へと一直線で向かう。


「だいちゃん、今日は早かったね。てか、昨日吹雪いてたけどああ言う時は見回りなんて後回しで帰ってきなよ」


 炬燵に入った大豆からの返答はない。仕方ないなと思いながら、私は炬燵の電源を入れた。

 そこへ、母がやって来る。


「凄い声したけど、大豆か ? 」

「うん。今帰って来た」

「朝っぱらから元気だね。あんたも今日は早いけど、仕事だっけ ? 」

「いや、休みだけど起こされた」


 母の質問に答えつつ、ずっと後を付けて来ていた麦を指さした。


「あら、珍し。お母さんが声かけたって、一回じゃ起きないのに……」

「だって、起きないとしつこいんだもん」

「あんたね……」


 呆れた様子の母だったが、そのタイミングで母のお腹が鳴ったのでとりあえず朝食を食べようと台所へ向かった。戻っていると、台所の方から音がして見に行くと曾祖母が私と母の分も味噌汁とご飯を盛り付けてくれている。


「たまちゃん、おはよう」

「おはよう」

「こら、珠代おばあちゃんでしょ」

「良いのよ」


 それから、ダイニングに移動すると三人で食卓を囲む。祖父は大工で、私たちが起きるより早く家出て行くのでご飯はいつも別だ。

 曽祖父は、週末だけ老人ホームにお泊りに行っていて今日は家に居ない。

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