第9話


 「深海アビス


 古代遺跡を深度3万mの深海へと変える呪文。


 この遺跡にはまだ三姉妹がいる。範囲は俺を中心に守護者を覆うくらい。


 範囲を絞り限定的にしてもこの大技を耐えられないだろう。


 大海に沈んだ守護者は藻掻き苦しむ。


 水圧と深海アビスに宿る無数の水精霊たちが守護者を掴み身動きを取らせないまま押し潰してゆく。


 軋む音、潰れる音、亀裂の入る音。


 守護者の全身から様々な音が聞こえてくる。


 せっかく用意した六本の曲剣など振るうことなく既に鉄塊となっている。


 守護者の中身を守る装甲が引きはがされ、露出してゆく。


 露出していく中で爛々と輝きを放つものが一つ。


 守護者を動かす核となるコアだ。


 「メイルシュトローム」


 人間大の大きさで水流によって形成された水の槍が露出した守護者のコアに向けて撃ちだされる。


 コアを撃ち抜き粉々に砕け散ると最後の最後まで足掻き続けていた守護者の動きが止まる。


 大人しくなった守護者は素直に潰れ、鉄塊となった。


 その様子を深海アビスの中で見守っていれば意識が朦朧とする。


 今の状態のように星の力で変身すれば絶対的な力を手に入れられるが人間には過ぎた力であり、俺が意識を保って変身できるのは一分が限界だった。


 解き忘れた深海アビスは俺のコントロールを失い、古代遺跡全体に流れ出す。


 変身が解けた俺は何もできないまま朦朧とした意識のまま大量の水に流される。


 星の力によって俺は溺れず、また水に関する事では完全耐性を備えている為、死にはしない。


 流れる水に身を任せ、気がつけば目の前には三姉妹がいた。


 「寝る」


 一言残して俺は意識を完全に失った。

 


 

 ○○○○



 「何っ⁉」


 アーシャは声を上げてソレアに抱き着いた。


 ゴーレムから逃げ切り、遠目からゴーレムの動きが止まるのを確認し安堵していれば今度は様々な場所で破壊音がした。


 ソレアから軽く教えてもらった古代遺跡で一体何が起こっているというのだ。


 ゴーレムと言う未知の兵器から追われ、身も心もいっぱいいっぱいだというのにこうやってまた何かが起きている。


 早くここから出たいが、ソレアがソウランを待つという。


 ソレア曰く、ゴーレムを止めたのもこの騒音もソウランが起こしているとのこと。


 「・・・・」


 セナとアーシャはソレアにしがみついて怯えた様子をしているがソレアだけはソウランが戦っているであろう場所を見つめていた。


 「っ⁉」


 鳴り続けていた轟音がいきなり鳴りやんだ。


 三姉妹は揃って古代遺跡の壁を見つめた。


 戦いが終わったのだろうか。三姉妹は次に起こる事に身構えていると大量の水が押し寄せてくる。


 入り口に辿り着くまでにあったゴーレムと共に迫りくる水は最後に巨大な金属の塊と上半身が裸のソウランを連れて来た。


 「寝る」


 そんなソウランであるが三姉妹と目が合うとその一言を残して気絶してしまった。


 言葉通りであるならば気絶するように寝てしまった。


 だらしない姿で寝ているソウランを助け出し、毛布をかける。


 ソウランから受け取ったマジックバックには様々な物が入っておりその中に毛布もあった。


 ソウランが起きるまで古代遺跡で待つことになったがいつ目覚めるかわからない。


 マジックバックをあさり、色々と出していけば一軒家のようなテントから様々な調理道具、見た音のない食材からあらゆるものが出てくる。


 取り敢えずソウランを中に入れて寝かせているが三姉妹はどうにもこの空いた時間の過ごし方が分からずにいた。


 「お姉ちゃんの方は大丈夫だったの?」


 セナが変な空気のこの場を打開すべく話題を振った。


 単純な興味もあるが常に一緒にいた姉とこうして離れ離れになった事でどう接してよいか少しわからなくなってしまった。


 「そうですね。私とソウランはその場で・・・・・その、まぁいろいろ喋ってセナとアーシャを助け出す事にしました」


 「お姉ちゃんから?」


 「いいえ。ソウランからです」


 ソウランに崩落から助けてもらった直後の事を思い出し、歯切れが悪くなるが完結にまとめて話した。


 「意外だね。お姉ちゃんが脅したのかと思った」


 「そっ、そんなことするはずがないでしょッ!? アーシャ!」


 「えへへ」


 本調子を取り戻してきたムードメーカーのアーシャの存在もあり、いつもの三姉妹の空気に変わっていった。


 そこからは古代遺跡の事、ゴーレムの事、ソウランの事を話した。


 こんな体験、一生に一度しかできない。けれどもう十分だとも笑った。


 短い時間の別れだったがソウランが起きるまでの間、取り戻すように身を寄せ合った。


 

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