第8話


 遺跡の守護者とはこれまで三回戦った。


 今回で四回目となるがそのどれもが違う姿をしている。


 魔物や動物をモチーフとして作られたのだろうが何か元ネタがあるのだろうか。


 ゲームや漫画だったら星座や十二支と言ったところがメジャーであろうか。


 ただ今目の前にいる遺跡の守護者は一体何を模倣して造ったのだろうか。


 下半身は蛇、上半身は人型であるが腕が六本もある。顔は仮面を被っており八つの光がこちらを刺すように向けられている。


 その様はまるで神話に登場するような化け物。


 守るべき古代遺跡の壁をぶち抜き、その巨体を遺憾なく発揮できるスペースを確保している。


 長槍を扱う身としてはありがたいがそれは相手も同様である。


 腕を伸ばし拳を振りかざしてくる守護者の動きに合わせて槍を薙ぐ。


 ぶつかり合い弾け合う。


 「ゥラァアアッ‼」


 少しの間、拮抗して見せたが守護者は身をのけぞり、俺は後方へ吹っ飛ばされた。


 体格を考えれば力に負けて押しつぶされないだけましだ。


 「クソ」


 しかし強い。


 ウザいくらいに強い。


 服を脱ぎ捨て上半身を裸にする。


 一々受けていたら倒す前にこっちが倒される。捌いて隙をつく事に戦略を切り替えた。


 繰り出される拳をいなしながら隙を伺うも守護者は六本の腕を起用に使って隙を見せない。


 「トライデント」


 自分を起点に水流が起こる。


 守護者と相対してから何度も拳と槍が交わり合ったが攻撃に使うのは三つだけであり、おそらく残りの三つは防御に回しているのだろう。


 三つの拳を捌き切るだけならば今のままで良いがそれでは一生勝つことはできない。


 だからこそ十八番ともいえるこの技。


 襲い掛かる三つの拳を一つの槍と二つの激流が華麗にさばく。


 そのまま反撃に出るも残りの三つに阻まれる。


 予想通りであるがこれでようやく五分と五分。


 お互いに攻め合い、守り合いを繰り返す。


 この時まで俺は互角の戦いを繰り広げていると思っていた。


 盲点だったと食らった後ならわかる。


 慣れた手付きで守護者の攻撃を捌いた時だった。


 今までとは違う動きを見せたのだ。


 身を翻し長く太く伸びた尻尾による攻撃。


 「っがふっ!?」


 頭の中で予想だにしていなかった攻撃を諸に喰らう。


 纏っていた水流をその場に全身の空気を吐き出しながら吹き飛ばされる。幾つもの壁を突き破り、地面に引きずりようやく止まった。


 途中で落としたシー・メイルを手で呼び戻す。


 上着は破れ青紫に腫れているわき腹が露出する。所々に骨折が見られ痛々しいにも程がある。


 重症おいながら立ち上がり、槍を杖代わりにして守護者を見据える。


(クソが)


 マジックバックから最上位回復薬を取り出して一気飲みし、入っていた瓶を放った。


 どこかで来るとは思っていたがまさかこんなにも早くに出して来るとは思ってもみなかった。


 油断だな。


 回復薬により元の状態に戻ると守護者は何所から出したかわからない曲剣を全ての手に持ち、眼からビームを放ってくる。


 それはまるでゲームに登場するような攻撃パターン。


 身を翻し避け切れないものはシー・メイルで弾く。


 解けたトライデントを再度使用し、無数に放たれるレーザーなど臆することなく突き進む。

 

 「ははっ!」


 笑っていた。


 俺は笑っている。


 戦いはいい。死闘になれば尚良。


 心臓が跳ね上がり続け、脳にドーパミンが溢れ出す。


 捌き切れないレーザーに体を焼かれても止まることなく突き進み、重なった長槍による投擲が守護者を吹っ飛ばす。


 「お返しだッ‼」


 シー・メイルを呼び戻し上機嫌に笑いながら宣言する。


 「本気を見せろよぉおおおッ‼」


 半壊した右肩を再生しながらゆっくりと体制を立て直す守護者を放置して呪文を唱える。


 ここまでの俺は奢っていた。


 何度も戦ってきた相手だからと手を抜いてきた。


 そして先程やられた。


 どうしても戦いを楽しみたくて手を抜いてしまうところがある。悪い癖だ。


 それも三姉妹を助けなくてはいけないのに先程まで忘れていた。


 さっさと倒して地上へ帰ろう。


 「ネプトゥーヌス」


 背後に燦然と蒼く輝く星が現れる。


 学生時代の理科の授業にて一度は聞いたことがあるだろう。その星の名は海王星。


 太陽系の中でも最も苛酷な環境をした魔の星だ。


 人はこの星に海の神の名を付け、敬意を払い畏怖した。


 「星よ、我と一つに」


 粒子となり全身に流れ込む海王星によって変化する。


 膨大な星のエネルギーを身体に宿せば人間なんて木端微塵もいいところ。


 だからこそ、適応するために俺の身体は変化する。


 肌は白く瞳は黄金の輝きを宿す。身に纏うは蒼。これを基調に水色のラインが脈動する。あるはずのない尾が腰から現れ体格が一回り大きくなる。


 瞬間。


 守護者の仮面を掴み、壁へと押し付ける。


 全身をうねらせ抵抗を見せる守護者と押し合いになるが、背中に展開された噴出孔から水が吹き出し一気に加速した。


 壁にぶつかり、そのままぶち抜いた。


 お返しだ。


 歴史的価値の高い古代遺跡など知った事ではない。


 守護者さえ倒せればそれでいい。


 「潰す」


 容赦なく潰す。


 今まではその長さと重さから完全に扱いきれなかったシー・メイルを自在に操る。


 更に変身したことにより宙を自在に飛べるようになったため、3次元での攻撃が可能となる。


 曲剣を使いレーザーを撃ち、尻尾を振るうがその全てを返されて反撃される。


 削られつつも再生を行う守護者が健気に見える。


 「終わらせるぞ」


 右手を構え戦いを終わらせる準備を始めた。

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