第5話 ソレアと俺と



 「・・・・・」


 塞がってしまった穴を俺とソレアはただ見つめるしかなかった。


 抱えたままだったソレアをそっと床に降ろしたが力なくその場に尻餅をついた。


 無言の時間が永遠に思えるほどその場に流れる。


 なんと声を掛ければいいのだ。


 わからない。


 「どうして・・・・・」


 薄っすらと何かが聞こえる。


 「・・・・・どうしてよ」


 傍で何かが聞こえた。


 「どうしてッ! どうして二人を助けてくれなかったのですかッ‼」


 初めて聞いたソレアの感情。怒りのまま怒鳴り散らした叫びを俺は受けるしかなかった。


 悲痛な叫び。


 何も言えない。


 予想外の事態とはいえ、アーシャとセナ両名を助け出すことはできなかったのだ。


 「済まない」


 「アーシャ・・・・セナ・・・・・どうして、どうして・・・・・」


 「・・・・・」


 鍾乳洞の広間の端でへたり込むソレアと立ち尽くす俺。


 このままではいけないと頭に考えが浮かぶ。


 その選択肢は合っているかわからない。けれどこれしか今の自分にはできない。


 「助けに行くぞ」


 短槍を拾い上げ、血を払う。

 

 「どうやってよ」


 「下へ行く方法を探し、助ける。食料も水もない状態だ。すぐに助けに行かないと二人は死ぬぞ」


 ソレアと向き合い、今確実にアーシャとセナを助け出す提案を出す。


 肩を掴んで無理矢理にでも立たせる。


 「二人を助け出せるのは俺たちだけなんだぞ」


 「・・・・・・わかった」


 ソレアも悲観しているだけではいけないと思ったのだろうか、すぐに立ち上がった。


 そしてソレアの絶望した目に映ったのはデビルパンサーの死骸たち。


 三姉妹が戦っていたものよりも一回り小さいものと子供と思える大きさが二つ積み重なっていた。


 「辺りを探してみよう。もしかしたら下へと続く穴が他にもあるかもしれない」

 

 「・・・・・・・」


 どのデビルパンサーの死骸にも共通点があり、それは脳天に大きな風穴が空いていた。


 それ以外には目立った外傷はなく、一撃で仕留めたことが容易に想像できる。


 「どうした?」


 立ち上がってから動こうとしないソレアの事を心配して声を掛けた。怪我をしているのなら早く治療をしなくてはならない。


 「このデビルパンサーたちはソウランがやったのですか」


 「ああ、そうだ。そんなことより早く探そう。時間が惜しい」


 ソレアからの疑問にすぐに答え、それぞれ手がかりでもないかと探し始めた。


 壁に手をつき、魔力を波状に流して隙間がないか見ていく。そこから下へと行ければいいのだが中々見つからない。


 はやる気持ちが焦らす。落ちた二人の状態や落ちた先の状況を考えると不安で仕方がない。


 前世で見たことのあるラノベでは強力な魔物や過酷な環境だった事が多かった。その印象が更に俺を不安にさせる。


 そんな時に遠くから呼ぶ声がする。


 「ソウランッ‼」


 ソレアの方へ行くと他の場所よりも壁が薄い場所があった。


 「よく見つけたな」


 「ええ、偶然ですが」


 辺りを凍らせて短槍を逆手に持ち、振りかざす。


 凍らすことで薄い部分を壊した影響により、崩れて塞がらないようにした。案の定、壊れることなく下へと続く穴を見つける事ができた。


 「これ、渡しとく」


 左右にぶら下がったマジックバックの内一つをソレアに渡した。


 「食料と飲み物、後は探索に使える物が入っているから使ってくれ」


 「ありがとう、ございます」


 「ここからは俺がメインで行く。ソレアは後ろから警戒を頼む」


 「はい」


 ここからは俺のターンだ。


 

○○○○



 洞窟内を走る。


 ソレアには絶対に俺から目を離さず距離を開けないように言ってある。


 常に魔力の波を全体に放ち感知する。


 少しづつその波を大きくして行きアーシャとセナが波に引っかからないかと思っているが中々反応がない。


 「もっと奥か・・・・」


 「そうみたいですね」


 一瞬だったが広間に空いた穴はかなり深かった。


 一本道だから良いがこの先分かれ道が現れれば更に捜索は困難となる。


 今は下へと向かうしかない。


 そんな時、後ろから声がした。


 「ソウラン、先ほどはすいませんでした」


 「・・・なにがだ?」


 ソレアからの突然の謝罪に俺は戸惑う。何故謝るのかが分からない。だって理由が思い当たらないからだ。


 「あの場所で怒鳴ってしまった事です。あの崩落は誰も予想できませんでした。それなのに感情的になってしまいました」


 「仕方がない事だ。俺が三人とも助けられれば良かった話だしな」


 ずっと一人でいたからか、誰かと行動を共にする事が慣れていない。


 きっとパーティを組んでいる冒険者同士ならばすぐにどうにかできただろう。


 情けない話だ。


 「デビルパンサー、他にもいたのですね。気づきませんでした」


 三姉妹が戦ったデビルパンサー以外に三体のデビルパンサーがいた。大きさからきっと子育てにこの鍾乳洞にいたのだろう。


 三姉妹が一体以上のデビルパンサーを相手にするのは無理と判断した俺は傍らで残りの三体と戦っていたのだ。


 気づかれないようにしたのだが、バレてしまったらしい。


 「本当に凄いんですね。A級冒険者とは」


 「そんなこと、無いさ。情けない限りだ」


 数少ないA級冒険者として様々な武功や古代遺跡の発見をしてきた。きっとどこかで調子に乗っていたつけがこうして回ってきたのだ。


 それに巻き込んでしまった三姉妹には本当に申し訳ないと思う。


 もしこのままアーシャとセナを失う事となれば一生悔いても悔やみきれな人生を送るだろう。


 「ソレア、絶対に二人を見つけ出して帰るぞ」


 「はい」


 決意を新たに洞窟内を下っていく。


 凸凹とした洞窟内を信じられない速さで走っていると光が見える。暗闇の中を走っているとよりひと際光の輝きが見てわかる。


 「ソレア、緩めるぞ」


 「はい」


 魔力の波に依然として何の反応もないが警戒するにこしたことは無い。


 光に目をならすようにゆっくり近づいていくと、古代文字に覆われた濃い緑色の遺跡がそこにはあった。


 遺跡全体が深緑というのは初めて見た。それも全体に古代文字が刻まれており、光っている事からこの遺跡は太古に造られた古代遺跡であり、それも生きている事になる。


 古代遺跡が生きている事から分かるのは防衛を担うゴーレムが製造されており、アーシャとセナがもしここに落ちているのならかなり危ない。


 ゴーレムたちの強さはデビルパンサーと比べれば大きく劣るが、倒すコツが必要なのだ。


 戦い方からしてあの二人では倒すことは難しく苦戦は免れないだろう。もし、ゴーレムの集団に襲われたりすれば・・・・・。


 「ソレア」


 「はい」


 「絶対に俺のそばを離れるなよ」


 「わ、わかりました」


 ここからが正念場だ。


 古代遺跡での捜索が始まった。

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