第4話 三姉妹と共に
洞窟の中が暗すぎるためか入り口に光が差し込んでも、暗闇が広がるだけで中はよく分からない。
ランプを灯し、前に掲げるようにしたがその前にソレアたちが魔法を使って辺りを照らした。
「使えるんだったら言ってくれよ」
マジックバックにランプをしまいながらぼやく。
「ごめんね。ソウランが炎系統の魔法が使えないなんて意外だったからさ」
「能力の問題で使いたくても使えないんだ」
急な坂となっている洞窟を足元に気をつけて下っていく。
あくまでも保護者的立ち位置の俺は三姉妹に挟まれる形で降りてゆく。
今までランプを使っていた身からすれば魔法を使って暗がりを照らす事がどれだけ楽なのかよくわかる。
「流石A級冒険者だよね~マジックバックを持ってるなんて」
アーシャは腰に備え付けてある布でできた袋を見ながらそんな事を言ってきた。
「水系統しか基本使えない俺はこれがないと不便で仕方ないんだ」
マジックバックは世界中に存在するダンジョンにて発見された魔法のアイテム。
大きさはどこにでもあるバックよりも少し小さいくらい。
その大きさとは裏腹に倍以上の物を収納できる。そんな優れた性能をしているがダンジョンの中でも上位に位置する難易度のダンジョンでしか入手できない事から価値の高いダンジョン産アイテムとなっていた。
マジックバックは一流冒険者の証とも言われ、貴族でも中々入手できない事からその希少性も窺える。
「やっぱりA級冒険者ですから持っていますよね。私始めて見ました」
「本当に何でも入りそう。いいな~私も欲しい・・・・」
「冒険者ギルドに大金叩いて依頼を掛ければもしかしたら受けてくれるかもな」
まあないと思うがな、と心の中で言っておく。
冒険者と貴族とは歴史的にお互いを嫌いあっている傾向にある。
貴族は平民である冒険者を見下し、顎で使う。縛られる事を嫌う冒険者たちはそんな貴族を嫌煙している。
冒険者なんてを求め、冒険する者が多いのだ。権力を笠に命令してくる奴らなんて好きなわけがなかろう。
それこそ冒険者の中でも上位に位置するA級やS級などの貴族嫌いは過剰なまでのものである。
俺は基本的に貴族たちに関わることなくA級となり世界中を駆け巡っている為、そこまで貴族嫌いではなかった。
三姉妹が権力に溺れた汚い貴族のような振る舞いをしてこない。だからこうして依頼をこなしている。
ここまで何度か手伝おうかと申し出てみたがしっかりと自分たちでこなすと確固たる意志を見せており好感が持てる。
いつかマジックバックを余分に手にしたら渡してもいいかなと思いもした。
急な下り坂が終わると緩やかかつ広々とした空間が広がっており、美しい青色の光が辺りを照らし、幾重にも反射して眩く輝いている。
ここが鍾乳洞で間違ってはいないだろう。
そんな幻想的な世界だが、当然の如く魔物が存在する。
半魚人のマーマンに始まり、お決まりのスライムであるウォータースライムやミズの妖魔、巨大なナメクジと水に関係した魔物が現れる。
三姉妹はミズの妖魔の可愛らしい見た目に戸惑い、巨大なナメクジに嫌悪感丸出しで戦いにくそうにしていたものの危なげなく倒し、奥へと向かっていた。
何度も戦っている姿を見ているが非常に安定しており、見事な連携だと言える。
ソレアは片手剣と炎系統の魔法を使い前衛をこなす。
アーシャは双剣を使い風系統の魔法でかく乱や弱点を突く。
セナは魔法を巧みに操り援護や補助を行っている。
前、中、後とそれぞれがその役割を理解し、戦いの中でこなしている。
これならばもしかするとデビルパンサーも倒せるのではないかと思う。
体感にして3,4時間経ったくらいだろうか、坂になっていた道が平坦となっていく。
鍾乳洞の終わりが近いという事だろう。デビルパンサーはもうすぐそこだ。
この事を三姉妹もわかっているのか震えており、緊張が全身に現れている。
「死にそうになったら助けてやるから安心して戦えよ」
マジックバックから短槍を取り出す。
愛用の4mにも及ぶ長槍はスペース的に使えない為、長さ1m未満の短槍を用意した。
「それで戦えるのですか」
珍しくソレアが質問をしてきた。
「任せておけ。それに頑張るのはお前たちだろ」
それぞれに声を掛けて送り出した。
○○○○
うろうろとしているデビルパンサーに向けてセナのファイアーランスが撃ち込まれる形で戦いが始まった。
しなやかかつ強固な鱗を纏ったデビルパンサーは初撃こそ命中するも、その後に撃ちだされたファイアーランスを華麗に避けて見せた。
ソレアは避けるデビルパンサーと一気に距離を詰め、真正面から相手取る。
前足の鋭いかぎ爪にてソレアの炎を纏った剣と相対する。
時折、太く伸びた尾びれにて攻撃を仕掛けようとするがアーシャによる的確な牽制やセナの援護射撃にデビルパンサーはその場にとどまり続けるしかなかった。
鱗に覆われてダメージが通りにくいが確実にデビルパンサーを削っている。
ソレアの戦い方は母であるアザレア・ミモザによく似ている。
アザレア・ミモザは分厚い大剣を持って炎と風を扱い敵を倒す。剣技や剣に魔法を纏わすやり方に既視感があり、同時に何処か腑に落ちない事があった。
それは他の姉妹も同様でこれまでの研鑽が見られる良い戦いをしているが何か違和感を感じる。
俺がモヤモヤしている間にも三姉妹とデビルパンサーの戦いは終盤戦ともいえるだろう。デビルパンサーが生き残るために必死の抵抗を見せ始めた。
水を操り辺り一帯に無差別攻撃をし始めた。
流石に不味いかと思い、動き出そうとしたが三姉妹はそれぞれのやり方でその攻撃を見事に捌き切り、逆に会心の一撃ともいえる首筋に大きく深い傷をつけた。
息も絶え絶えのデビルパンサーに対して油断することなく、鱗の禿げた胸にソレアの炎剣が刺さり、体内を燃やし尽くした。
生命力の高い魔物でもこれだけの攻撃を受ければ死ぬ。
デビルパンサーが最後の悲鳴を上げ、地に伏した。
油断することなく反撃の構えを続ける三姉妹であるが、濁った眼と穏やかな表情から死を確認した。
三姉妹の勝利だった喜びの雰囲気から急転換することが起きる。
討伐証明部位となるデビルパンサーのひときわ輝く背ビレを取り掲げた瞬間の事だった。
激しい戦いの影響なのか鍾乳洞の天井が落下し、またひび割れていた床が突き抜ける。
三姉妹は突然の浮遊感に戸惑いながらデビルパンサーの死骸と共に落ちてゆく。
「っ⁉」
端にいたことで鍾乳洞の崩落に巻き込まれなかった俺は一歩出遅れた。
握っていた短槍を投げ捨て、穴に向かって飛び出した。
デビルパンサーの死骸に邪魔されソレアのみ助ける事しかできず、突き抜けた穴に落ちたアーシャとセナに手を伸ばすも次々に落ちてくる巨大な岩石によって穴は塞がってしまった。
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