第3話 買い物と三姉妹と


 

 目的地であるポドルディには王都から5日間かけて辿り着いた。


 この5日間は特に何か起こることなく野営の旅が続いた。


 三姉妹には初めての経験と喜んでいたが俺にとっては地獄そのものだった。


 監督役となった俺はただ三姉妹について行くだけ。


 この課題は生徒である三姉妹に出されたもの。特に何もするなと言われおり、本当について行っているだけである。


 何もしなくても食事が出て夜の見張りをせずぐっすり眠っていい。


 どんな楽な旅だと思えるが女性三人。しかも姉妹である。


 その中で過ごすというのもかなり疲れる。それなりに親しければそんな事は無いのだろうが初対面の女性となるとかなりストレスを感じる。


 男としては何かしなきゃと思ってしまうのも日本で過ごした事が影響しているのだろう。


 異世界では男も女も関係ない。


 強ければ、賢ければ上に行き弱者は勝手に下に行く実力主義な風潮が強い。


 最も分かりやすい例を挙げるならばやはりアザレア・ミモザだろう。


 かの女傑は十代半ばから戦場に立ち、数々の武功をたて兄弟を押しのけて当主の座につき、男爵から伯爵まで爵位を上げた。


 実力も容姿にも秀でた彼女の成り上がり物語は出来過ぎている部類だろう。


 だから何かすることは無いかとソワソワしている俺など三姉妹の眼から見たら不思議に思われているだろうな。


 「なにもぞもぞしてるの。もしかしてトイレ? なら木陰でもして来れば」


 「違うわ」


 ほら予想通りと言うべきかアーシャが頬を釣り上げて笑みを浮かべながら見当違いの言葉が返ってきた。


 「今まで一人でいたから慣れないんだよ」


 「そうなんですか・・・・・大変ですね」


 案の定セナから同情的な返しをされ、その後ろで笑っているアーシャに眉をひそめる。


 「幼い頃からずっと一人だったからな。お前たちのような姉妹が羨ましいよ」


 これは今までの会話とは違い本音である。


 異世界転生してから碌なことが無かった。両親は早くに疫病で死に、幼き頃から一人で生きてきた。


 日本での生活が土台となったから今まで生きてこられた反面、日本で通じた常識が常に覆された。


 何度も命を自ら断とうとしたがそれも前世での道徳が最後に行動を止める要因となった。


 今でこそ個人でA級冒険者になったとはやし立てられるが何度も仲間を求めたことがあった。


 こうして三姉妹が協力している様を見ていれば昔に思っていた気持ちも自然と蘇ってくる。


 「本当に一人でいたんだ~私がお姉ちゃんになってあげようか?」


 割と真面目な話をしたつもりがアーシャは茶化してくる。


 「いらんわ」


 「そんなこと言わずにさ~ほれほれ~」


 中腰で近づいてきたアーシャは手を伸ばして頭を撫でようとしてくる。


 「やめろって。大体、俺の方が年上だぞ」


 ソレアと俺は同い年であることからアーシャは一個下なのだがその事を言っても聞こうとはせず頭を狙ってくる。 


 「あははは」


 「・・・・・」


 そんな様子を可笑しそうに笑うセナと眺めつつも黙々と作業をこなすソレア。


 俺は久しぶりに他人と触れ合う夜を過ごした。



○○○○



 ポドルディから左程離れていない場所に鍾乳洞へと繋がる洞窟があり、そこにデビルパンサーの出現情報が挙げられている。


 明日からデビルパンサーの住む鍾乳洞へ向かう予定を建てており、今日はその最終準備をしていた。


 ただ、最終準備と言っても食べ物を用意する程度。


 買うものをさっさと買った俺を含めた四人は市場にてそれぞれ各々の見たい物を見ていた。


 飾りや装飾、食器から武器といったものまで統一性なく個人が出店したいものを出しているという感じだ。


 アーシャが向かった方を見ると小物や雑貨を中心に回っている。


 時折、手に取ったり身につけたりしていた。


 大人ぶってお姉さんのように振る舞ってくるが年相応の女の子らしい趣味をしている。


 セナは物珍しく植物の苗や種を見て歩いている。


 植物や花が好きなのだろうか。貴族の子女らしい趣味をしており、三姉妹の中で最もお淑やかだと思う。


 そんな二人に対してソレアといえば脇の方で一人で立っている。


 先程買い揃えた食料などの荷物を持って目を瞑り、荷物番をしながら姉妹たちを待っているのだろうか。


 「ソレアは見ないのか」


 近づいて声を掛けるとゆっくりと目を開けてこちらを見てくる。


 「私はいい。2人が楽しんでいるだけで十分だ」


 今回の課題はソレアが出されたもので学年が違うアーシャとセナは授業があるというのについてきた。


 勿論、ソレアの課題が無事に達成できれば出席扱いになる為気にすることではないのだが、妹思いな姉であるからこそ気にしてしまうのだろう。


 「荷物くらいなら俺が見てるからソレアも見て来いよ」


 「別にいいわ」


 「・・・・・・」


 こちらから目線を外しそっぽを向く。


 そんな態度をしたって知っているぞ。ソレア、お前が服を見ていた事を。


 庶民の服なんてとかそんな尖った貴族らしくはない純粋な興味があるのだろうか。


 「行って来いよ」


 ソレアの手に握られた袋を奪い取るよう手にとって行くように促した。


 少し驚いたのかソレアの切れ長の目が見開いた。


 見つめ合い行くように促すが中々市場へ足を踏み出そうとしない。


 目と目でお互いに気持ちを指し示すが段々と照れ臭くなってくる。


 同い年の異性とこうして目を合わせる機会なんてなかったんだ。仕方ないだろ。


 それはソレアも同様であったみたいだ。


 「・・・・・ありがとう」


 気まずくなったのかこちらに顔を見せず小さくそれだけを言って露店の方へと行ってしまった。


 こんな殺伐としたことが絶えない世界ではあるが女性は女性なんだと思わされた。

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