第2話 三姉妹と冒険者



 俺の下に一枚の手紙が前触れもなく手元に届いた。


 その内容についてはほとんどが脅しや強迫であり、しがない一市民では拒否することはできない。


 まるで脅迫されている気分になる内容だった。



 俺はアザレア・ミモザと話した通り、西部にて身体を休ませながら簡単な依頼に従事していた。


 その中で受付嬢からソウランご指名の依頼が届いたと言われる。


 指名してきた先は当然、ミモザ伯爵家のアザレア・ミモザ。


 手紙を受け取る前から依頼主は分かっていた。この人にしか自分の居場所を言っていないからだ。


 指名依頼なんて仰々しい事だと手紙を開封した。


 手紙には貴族らしい前置き文は無く、淡々と今回の手紙を出した経緯が説明されており要約すると護衛依頼について書いてあった。


 護衛対象はアザレア・ミモザの娘である三姉妹。


 内容は王立騎士学校に通う三姉妹が学外実習の課題が出された為、監督役として俺を指名した。


 期間は最低でも半月、長くて2ヶ月程度と書かれている。


 A級冒険者をこれだけの期間拘束するとなればかなりの金額が発生する。それなのに依頼を出すとは女傑貴族と言うべきか。


 前金アリの一括払いときた。


 更に断れないよう断った場合の俺の扱いまで丁寧に書いてあった。

 

 断れば伯爵として王国軍に推薦し共に東部にて共和国相手に戦おうだと。


 断ったら一生東部にて戦わなくてはいけないかもしれない。だったら一ヶ月間の拘束を受け入れたほうがずっとましだ。


 アザレア・ミモザの依頼を粛々と引き受けた。





 合流場所は王国の中心である王都。


 依頼を正式に引き受けた俺は直ぐに荷物をまとめ、借りていた宿から撤収して馬車を乗り継ぎ一週間かけて王都に辿り着いた。


 既に課題は出されており、直ぐに来いとのことだった。待ち合わせ場所である広場前まで馬車の停留所から休むことなく急いで向かった。


 アザレア・ミモザ曰く、三人組の少女の姿があればすぐにわかるとのこと。


 王都は広い。


 王国内で一番の人口を持つ王都で人探しなど、例え依頼があっても絶対に引き受けたくない。


 いくら待ち合わせをしているからと、簡単に見つかるわけがないだろと思いつつ広場前まで来た。


 そして瞬間で分かった。


 「アザレア・ミモザの娘である三姉妹か」


 走行速度を緩め、ゆっとりとした足取りで三人組の少女に近づく。


 アザレア・ミモザは手紙にて幼い少女と記してあったがどう見たって少女ではない。


 アザレア・ミモザを彷彿とさせるスタイルの良さ。それに整った容姿。とても少女とは言えない。


 髪の色や瞳の色、目元、口元の形などは違えどアザレア・ミモザの血族だと、そんな感じがする。


 「そうよ。そういう貴方はA級冒険者ソウランで間違いないかしら」


 長く伸びた銀髪、切れ目の蒼眼。三姉妹の中心にいるクールな見た目の女性が声を掛けてくる。


 「そうだ」


 冒険者カードを証明にして返答する。


 「本当だ~! ママの話って本当だったんだ~」


 冒険者カードを見て大げさに反応するのは右にいた派手めな女性。


 緩く赤い髪をサイドテールで纏めた黒の猫目が品定めするように見てきた。


 「ここで立ち止まって話していても仕方がない。移動の準備はできている。行くぞ」


 冷静と言うかどこか冷たさを感じる言葉と共に銀髪は先に進む。赤い髪もそれについて行く。


 俺も二人の後をついて行くと隣に蒼い頭が現れる。


 ミディアムヘアで左右に髪をまとめた赤眼の女性。二人とは違い優しげのある可愛らしさが見て取れた。


 「ごめんなさい。二人とも緊張しちゃってて本当はあんな感じじゃないんだ」


 「ああ、大丈夫だ」


 さり気ないフォローに感謝とまともに話してくれそうな人がいて良かったと内心安堵した。


 移動に使う馬車を始め食料や野営に必要なものまですでに揃っている。


 完全に俺待ちだったという事だ。


 いきなり依頼を出され、完全に振り回されていた身としては罪悪感を感じる必要が無いのだが申し訳なく思ってしまう。


 馬車が出発し少しの時間が経つが会話がない。


 (何か言った方がいいのだろうか・・・・・)


 女性と話す経験が少ないから何の話題だったら話してくれるのか分からない。


 「ねぇ自己紹介からしない?」


 一人、頭を悩ませていると赤い髪の子が話を振ってくれる。


 そしてここで俺は自己紹介をしていない事に気が付いた。複数人でいる事や異性と話すことが無かった弊害が出てしまう。


 「私からね。私は次女のアーシャ・ミモザ。よろしくね!」


 「私は三女のセナ・ミモザです。よろしくお願いいたします」


 赤い髪のアーシャ。蒼髪のセナ。流れで銀髪を見るが何も帰ってこない。


 馬車を引いている馬の手綱を取っているから話せないのだろうか。ならば自分が名乗ろうとした瞬間。


 「長女のソレア・ミモザだ。」


 「・・・・・・A級冒険者のソウランだ。よろしく」


 銀髪の女であるソレアが名乗ろうとした瞬間に名乗ってくる。


 (こいつとは合わない)


 この短時間ではあるが三姉妹の第一印象はそれぞれで長女は冷徹、次女はお茶目、三女は穏和みたいな感じだ。


 正直、これからやって行ける気がしない。


 「ソウランさん。今回は私達の依頼を引き受けてくださりあるがとうございます」

 

 「あ・・・・・はい」


 「私達の母であるアザレア・ミモザ伯爵に優秀な冒険者を相談したところ貴方の事を推薦してくださいました。なので母にお願いしてソウランさんに来てもらった次第です」


 先程までの固く紡いだ唇を動かして淡々と説明をしてくれる。


 「そうですか」


 「今回の依頼は私の課題に必要な条件として出された為、お願いしました。基本的には私達三人でどうにかするのでいてくれるだけで構わないです」


 「うす・・・・・」


 何か嫌われている気がする。


 「あと言っておきますが私達に対して変な素振りを見せたら例えA級冒険者であっても容赦しません」


 「はい」


 訂正。しっかり嫌われてるみたいだ。




 ソレア・ミモザの言っていた事を後からセナに詳しく教えてもらった。


 現在、王立騎士学校の三年生であるソレアは前期に出された課題の為こうして三姉妹で取り組んでいる。


 学校として幾つかの難易度別に分けられた課題を提示しており、その中で最も難関とされる『デビルパンサーの討伐』を引き受けた。


 学生同士協力して共通の課題を成し遂げる事も許可しており、ソレアは一学年下のアーシャ、二学年下のセナと協力して課題に取り組むという。


 課題であるデビルパンサーであるが推奨例としては最低でもB級冒険者3人がパーティを組んで挑むとされている。


 いち冒険者としては学生がこなす課題から逸脱していると思う。


 それは学校の教官たちも同様なようでB級冒険者5人分とされているA級冒険者に同行の依頼を受けてもらえた場合のみ、課題を受けられる様にしているという。


 そこでソレアは母であるアザレア・ミモザに相談して、ついこの間死線を共に乗り越えた俺に依頼が来た。


 A級冒険者として同行はするが、基本的に手出し無用。遠足と同様に行って帰って来るまでが課題であり、何もするなと言われた。




 デビルパンサー。


 象よりも大きい体躯であるが俊敏かつ軽やかな身のこなし。水中での環境へ適応したしなやかな肉体に全身を覆う固い鱗。より研ぎ澄まされた牙や爪は簡単に鋼を切り裂く。


 よくある魔物の紹介文ならこういった感じであろうか。


 取り敢えず言いたいのはかなり難しい課題である。実際に三姉妹の実力を見たことは無いから何とも言えないがこれを作った教官たちは中々のものだと思う。


 高い金を払われたのだ。


 それにアザレア・ミモザの怒りを買うことなどしたいはずもない。精々、頑張って働かせてもらおう。

 

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