異世界式十二姉妹の捌き方

最近、チョコブラウニーがおいしすぎ

序章

第1話 女傑貴族と転生者


 転生者であり冒険者をしているソウランは戦場の最前線にいた。


 ここにいる目的は戦いである。


 12の頃からソロ冒険者として活躍し続けたソウランは人や魔物との戦いと未知の世界を冒険する事を主として生きてきた。


 異世界に広がった未知の世界に魅了された一人の少年として、世界を駆け巡っていれば一流ともいえるA級冒険者になっていた。


 丁度王国南部にて次の冒険への支度をしている時に魔物の大群が襲来するからと、冒険者の緊急招集がかかった。


 そんな俺得イベントに参加しない訳がない。一目散に招集に応じ、こうして平原に隙間なく埋め尽くされた魔物の大群と向かい合っていた。


 例えるならば海の如く。平野を埋め尽くすかのように魔物たちがゆっくりと迫ってくる。


 対して人間側と言えば王国南部に領地を持つ7貴族のうち、4つの貴族が軍を派遣していた。


 基本的に協力することを得意としない自由主義な冒険者は貴族に従事する騎士たちからはあまり戦力として当てにされてはいない。


 その為、四つの軍隊を中心に冒険者たちが分散する形で陣形を組んでいた。


 自領地の戦力をゼロにするわけにはいかない中途半端な数の貴族軍と緊急に集められた冒険者。


 数年に一度起こる魔物の大群が攻めてくるスタンピード現象。その兆候があった時点で冒険者にも呼びかけておけばいいものを、サボるから結果的に数十倍の相手をしなくてはならなくなってしまう。


 南部貴族連合軍の中では負け戦や撤退戦などと囁かれている。


 それを聞いた俺の個人的な意見としては負けるつもりはない。


 一人になったとしてもこの戦場にて俺だけが生き残っていれば勝ちである。


 元日本人としては欠けてしまった倫理観であるが、この死と隣り合わせのイカレタ世界ならばこのくらいの気の持ちようでないと一人では生きていけない。


 異世界生活18年目で培った処世術だと思ってもらって構わない。


 最前線に来るまでの流れとしては冒険者ギルドにてミモザ伯爵家の軍に派遣されることが決まり、ミモザ伯爵家の天幕へと向かった。


 ミモザ伯爵家の現当主は東部で繰り広げられている共和国との戦争にて数々の武功を打ちたててきた女傑である。


 元々男爵家だったミモザ家のアザレア・ミモザは若き日から戦場で生きてきた。歳は40代であると言われることから20年以上を戦場で過ごしてきたことになる。


 きっとキングコ○グみたいな人なんだろう。数ある逸話から勝手に想像していた。


 そんな噂を耳にしていたが天幕にて偶然にも顔を合わせる機会があった。


 実際会ってみた感想は年齢詐欺もいいところ。40代では絶対にありえない美しさを持ち合わせた大人の女性がいた。


 赤い髪を伸ばし大きな黄色い眼を持つ長身の彼女は長年にわたり戦場にて戦ってきたためか、均整の取れた肉体の至る所に傷があった。


 全身に鎧を身に纏っているのにそれを感じさせない美貌。そして周りから発せられる威厳と気高さは容易に辿り着くことのできない年月を感じた。


 二言三言、言葉を交わしたが俺を平民や冒険者としてではなく一戦士として認知してくれており、要らぬ二つ名までも覚えてくれていた。


 A級冒険者として期待もされているのだろう。


 実際に魔物との戦いが始まればいの一番に突っ込んでいくつもりだが、正味俺の能力は集団戦に向いていない。


 あまりにも個の能力が高すぎるため、味方がいると本気で戦えないのだ。


 別に隠す必要がないから言ってしまうが俺の能力は『ネプテューヌ』。星の加護を受け、力を行使する。


 星の力は強大と言うべきか、ほとんどの魔法は使うことができないが能力の名の通り水を自在に操る事ができた。


 武器は4m近い槍を使い徒手空拳もそれなりにこなせる。


 尻込みする他の冒険者や兵士たちを押しのけ、堂々たる笑みを浮かべて魔物たちを見る。


 少し離れたところではアザレア・ミモザも同様に騎士たちを率いて先頭に立っていた。


 魔物たちはゆっくりとこちらへ向かってきている。その距離はおおよそ5㎞。


 通達では魔法部隊及び弓兵部隊による遠距離の大規模攻撃が止み次第、突撃することとなっている。


 鐘の音が聞こえたら一度下がり遠距離攻撃、止み次第再度突撃。波状攻撃により前線の消耗と確実に魔物を減らす作戦がメインであり魔物の大群のある程度間引き次第、貴族の精鋭部隊がボスであるブルームリザードを討伐する算段となっていた。


 アザレア・ミモザ以外にも有名な騎士や戦士はいるが正直、成功するか分からない。だが一番最後まで戦場にいるのはこの俺だ。


 そんな事を思っていれば後方から魔力の塊が弧を帯びて魔物の大群に向けて放たれてゆく。


 始まった。


 血沸き踊り、肉叫び狂う戦いが。


 突撃の鐘の音が鳴らぬうちに俺は飛び出した誰よりも早く誰よりも勇猛に。




○○○○



 人間と魔物の戦いは三日三晩、28回に及ぶ波状攻撃によって人間側の勝利によって終わりを告げた。


 今回の戦いにおいて勝利と言う結果になったが魔物側による3度のイレギュラーな要素によって戦線を維持できないほどに追い込まれ、辛勝の中でも酷い内容だった。


 魔物の中に知能が発達したものが数匹いる事で一纏まりになっていた人間側に効果的な陽動作戦を用いてきた事。


 大群のボスであるブルームリザードが亜竜に分類されるフォレスドラコに進化した事。


 魔物の多くが剣や槍、盾に弓矢。そして魔法を用いてきた事。


 予想だにしない事ばかり立て続けに起こった事で終始流れは魔物側にあったが最後は経験の差と圧倒的な個の武力たちによって南部貴族連合軍は勝ちを拾った。


 南部貴族連合軍から騎士、兵士、冒険者すべて合わせ半数以上の死傷者が出ていると予想されているがこれよりも増える可能性もある。


 そんな中で俺は当然のように生き残っている。五体満足で。


 いる場所のない俺は気長に魔物たちの伏兵が潜伏していないか城前で見張っていた。


 「戦の英雄がこんなところにいるとは思わなかったぞ」


 「あぁどうも」


 暇そうにしている俺に話をかけてきたのはこの戦いで常に前線で戦い続けた女傑アザレア・ミモザだった。


 「冒険者ギルドも野戦病院と化しているので居場所がないんですよ。それにここで魔物の残党に襲われたら守った意味もなくなりますしね」


 「確かにな。残党狩りの編成もままならない状況であるからな・・・・・」


 流石一年中戦場で生きている人だ。


 あれだけの大太刀周りを繰り返したというのにもう元気そうにしている。

 

 「しかし妙だな」


 「なにがですか」


 「あれほどまで狂ったように戦っていた男が話してみると理知的だな」


 「戦いは好きですが分別はしっかりとしていますよ」


 俺のルーツは日本の高校生でありアザレア・ミモザには殺人鬼かなんかだと思っているのだろうか。 

 

 「ここが落ち着いたらどうするのだ」


 「そうですね・・・・・骨休めに西部に行こうと思っています」


 「なんだ。東部にてその槍を振るってくれはくれないのか」


 アザレア・ミモザはニヤリと笑みを浮かべる。


 「騎士になるつもりはないので」


 チラリと真横に並ぶアザレア・ミモザの横顔をみれば残念そうな顔がそこにはあった。


 共和国との50年以上にも及ぶ小競り合いはここ1,2年膠着状態が続いているらしい。


 貴族に仕官する事を望む者や王国内で名声を求めるものは東部で戦争に参加し、戦果を上げようとする。


 戦いは好きだが冒険も好きな身としては遠慮したい場所である。


 「私はもう東部へ戻らなくてはならない。共和国の方に動きがあったそうなのでな」


 「そうですか。大変ですね」


 俺の一言から少しの時間無言が続いた。


 フランクに話をしているが年齢も立場もあちらの方が上である。何か話題を振ろうとアザレア・ミモザの方を見ると目が合った。


 数秒間見つめ合った後にアザレア・ミモザは舌なめずりをしている。


 「・・・・・なんですかそれは」


 決して聞きたくはなかったが聞かないといけない様な気がした。


 「お前、童貞だろ」


 「・・・・・そうですけど、それがどうしたんですか」


 特に隠すことではないので嘘は付かないが何故分かったのだろう。


 「初々しいからな」


 「心読まないでください」


 何だろう。急にやりづらくなってきた。


 ここから早く立ち去りたい。もしくは早くどっか行ってほしい。 


 「時間があれば、もしくは私が若かったら貰ってやったが致し方無い」


 「・・・・・」


 唖然。俺は今、命の危険を感じ取った。おそらく異世界に転生してきて一番震えている。


 「なんて顔をしている。私が若かったころは強者とわかれば誰とでも、だったぞ」


 「・・・・・」


 もう一言たりとも発せない。頭がアザレア・ミモザの言葉をリカイシキレテイナイ。


 コレガオウコクノジョケツサマナンダロウ・・・・。


 末恐ろしい現実を受け入れる事を辞めた俺はアザレア・ミモザと別れの言葉を交わした。


 「今回の戦いは酷いものだったが君と出会えた事を嬉しく思うよ」


 「王国の女傑様にそう言っていただけると嬉しいですね」


 「『怪童かいどう』ソウランの名は忘れないようにしよう。さらばだ」


 血に汚れた城前から爽やかに去ってゆくアザレア・ミモザの後ろ姿を見ながら俺は思う。


 厄介な人に目を付けられたと。


 そしてこの予想は一ヶ月後に当たる事を俺はまだ知らない。

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