第6話
トレア王国中央部、周囲を森に囲まれた場所にそれはあった。
セルバの城、フェーデが団長を務めるセルバ騎士団の本拠地である。
加工していない岩と石を積み上げ、隙間に土を入れて作った城壁、その中に木と煉瓦で出来た建物が一棟あるだけのみすぼらしい城だ。
だがそこに集うのは雄々しく凛々しい騎士達。
「全員揃ったな。では話をしよう」
城の建物の一室で、フェーデはセルバ騎士団の団員の中でも選りすぐりの騎士達を集め話を始めた。
「目標はサロモン王の暗殺。トレア城にいる兵士は少ないものの城壁が堅固だ。おまけに周りから援軍が来ないとも限らない」
皆ここに集った理由は分かっていた。
それゆえ後はフェーデの話、いや作戦を聞くのみだ。
「速さが勝利への鍵となる。馬を使い、夜の闇に紛れて城を急襲。正門から一気に城内に雪崩れ込みサロモンを討つ。以上だ」
「陣形は?」
騎士達が一斉に手を上げ、質問をしだした。
「密集陣形、出来る限り音を出さないようにする。銅鑼の使用も禁止だ」
「敵の予想される数は?」
「およそ50名と思われる。だが前述した通り数は増える可能性もあるのを忘れるな」
正直なところ、このまま楽に倒せるとはフェーデも思ってはいない。
サロモンも自身の城に攻め入ってくる可能性くらいは考慮しているはずだし、なにより城の中にいる護衛もそれなりの手練れだ。
腰巾着のダニエルすらもそれなりには腕がたつ。
「ふ、フェーデ様。ぼ……いや私からも質問をよろしいでしょうか?」
「なんだセシリオ?」
皆真剣な表情を浮かべる中、渋い顔をした騎士が手を上げながら質問をする。
彼の名前はセシリオ、長剣の腕に定評のある騎士だ。
「我々は『王の敵を討て』『裏切ることなかれ』と誓ってあります。王に剣を向けるのは我々の掲げる騎士の誓いに反するのでは……?」
その言葉に眉根を寄せる騎士達。
周りの騎士達が今にも怒鳴りかかろうというのをフェーデは制して答える。
「そうだ、誓いに反する。我々はいずれ罰を受けることになるだろう。だがそれでも成さなばならぬことがある。あの暴君をこのまま野放しにして、民が傷付くのを黙ってみているのはそれこそ外道の所業だ。それはセシリオ、お前にも分かるだろう?」
「それは……確かにそうですが……」
不服そうにしながらも、セシリオは下がった。
「他に何かあるものは? 居ないか? よし、決行は明日の夜だ。それまで十分に休息をとるように」
セルバ城の城門から出たすぐの場所。
集まりが終わったあとセシリオは馬を連れてそこにいた。
──いくらなんでも無謀すぎる。
額に汗を浮かべながら、セシリオは頭を押さえる。
他の騎士達は覚悟を決めていたようだが、セシリオは違う。
誓いを破ることへの恐怖もあるが今回は犬死にする可能性が一番高いことに不安を覚えている。
──サロモン王が暴君というのは分かる、フェーデ様の言うことも理解はできる。だが……
仮にもサロモンは王、トレア王国の全土を掌握している。
当然彼に付き従う勢力は多く、たかだか200人程度のセルバ騎士団にどうこうできるとは思えないのだ。
仮に今回の作戦が成功しサロモン王を討ったとしても他の勢力にすりつぶされる可能性も高い。
そうなってしまえば他の貴族達に首がすげ変わるだけで何も変わらない。
──一体どうすれば……
「おおセシリオ様。お久しぶりです。どうされたのですかこんなところで?」
「あ、ああベニート。久しぶりだね。元気そうでなによりだ」
悩んでいたところ数頭の馬を連れたベニートがやってきた。
青い瞳を輝かせ、涼しげな笑みを浮かべるベニート。
その姿はセシリオとは対極的だ。
「僕は少し出てくる。その……親しい人に別れを告げておきたいから」
「心配性ですな。私に剣を教えてくれた1人である貴方が死んでしまうとは到底思えません。」
どこまでも爽やかに笑うベニートに、セシリオもぎこちない笑顔で返す。
「ははっ……うん。そうだね勝とう。民の為に、僕達の為に」
「ええ勿論。サロモン王の死は必ずやこの国に平和をもたらすでしょう。それでは、馬を待っている方がおりますので」
「うん、またね」
馬を引き連れ去っていくベニートを見送りながら、セシリオは馬に乗りこむ。
「……さようなら、ベニート。そしてセルバ騎士団」
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