第4章 死霊と生霊、どっちが怖い?
第三話 死霊と生霊、どっちが怖い?
「孫が死にそうなガよ!太夫さん、助けちゃっトーセ!」
そう言って、祈祷場に駆け込んできたのは、近所に住む、桃枝ばあさんだ。
「どうした?モモちゃん!孫ユウたら、タカシ君かね?それとも、下のナオキちゃんかね?」
「ナオキのほうよ!半月前から、具合が悪ウなって、熱が下がらん!風邪や肺炎やないそうで、お医者さんも原因がわからん、ユウガよ!食事も喉を通らんなって、病院のベッドで、痩せ細っチュウ!先生は、もう、手の打ちようがない!言い出して……、もう、頼みは、太夫さんだけナガよ!ナオキを助けちゃっトーセ!」
ばあさんは、もう涙目で太夫の袖を両手で引っ張る。
「よし、よし!アテにできることは、何でもシチャオゥ!ちょっと、易を立てるキ、ナオキちゃんの生年月日を教えトーセ!」
太夫さんは、桃枝ばあさんを労るように、椅子に座らせ、半紙に孫の氏名と生年月日を書かせた。
御幣(ごへい)と呼ばれる、和紙で作った、ヒト型に似た神事に使うものを取り出し、半紙にそれを乗せる。筮竹を持って、なにやら、真言を唱えながら、筮竹を半分に分けて行く。
「ナオキちゃんは、この夏に、河原で遊んだろう?その時、長い竿を持って、帰って来んかったかえ?」
と、太夫さんが、尋ねた。
「長い竿……?そうユウたら、川で、ハヤを釣りよった!そうじゃ!夕方、釣り竿を下げて帰って来たが、顔色が真っ青やったことを覚えチュウ!」
「やっぱり……、河原で、死霊に取り憑かれたね!たぶん、誰かが上流で、盆のヒト型を流したガやろう……。その霊がナオキちゃんに取り憑いたガよ!」
「死霊が?太夫さん!ホイタラ、お祓いしたら、ナオキは助かるガかね?」
「そうやね!たいした死霊やないロウキ、お祓いはできるロウけんど、本人が病院のベッドから動けんガやろう……?」
「本人が居らんと、お祓いは出来んガか?」
「まあ、シャアない!ナオキちゃんが一番好きな洋服を持ってキ!それをナオキちゃんの身代わりにして、お祓いの祈祷をする。その洋服をナオキちゃんに掛けてやってくれるか……。そしたら、死霊を祓うことができて、ナオキちゃんが何かを食べとうなるロウキ、その食べモンを食べらしチャリ!それで、ナオキちゃんの病気が治るはずヤ……!」
「わかった!ナオキが一番好きな洋服ヤな?いっつも着ユウ、青いセーターがある!それをすぐに持って来るキ……!」
※
「お師匠さま!ナオキちゃんという男の子に死霊が憑いたんですか?でも、ナオキちゃんと、その死霊とに、何か関わりがあるのですか?」
桃枝ばあさんが、孫の青いセーターを大事そうに、風呂敷に包んで病院に急いで帰ったあとの祈祷場で、スエが太夫に尋ねた。
「ないね!ナオキちゃんは、ただ、その死霊の流されて行く、川の中に居っただけよ!縁故関係など、まったくない霊魂よね!」
「それが、どうして、子供に取り憑いたりしたんですか?」
「死霊の気持ちなど、わかるわけがないけんど、今までの経験からユウと、信心深い家族が居る人に取り憑くみたいヤね!つまり、桃枝さんが信心深いことが、孫に死霊が憑きやすい理由よね……」
「はあ?よく、わからないんですけど……?」
「信心深いと、お祓いをしてもらえる!つまり、死霊が『成仏』できるガよ!ナオキちゃんに取り憑いた霊も、もうすぐに、成仏できるロウキ……」
「成仏したくて、縁故のない人間に取り憑くのですか?死霊って怖いですね!」
「いや!スエ、死霊や浮遊霊は、成仏したいから、お祓いしやすい。けんど、生霊は、成仏したいガやノウて、祟るだけヤキ、かえって面倒ナガよ!あっ!こんなことを言いよったら、『噂をすれば影が射す!』ユウキニ、生霊が絡んだ事件が起きるかもしれんキ……」
※
「太夫さん!ありがとうございました!」
と、白髪頭を深々と下げ、桃枝ばあさんは菓子折りと『御礼』と書かれた『熨斗袋(のしぶくろ)』を差し出した。
孫のナオキに、青いセーターを布団の上から被せると、翌朝、ナオキが、
「貝が食べたい!」
と、ポツリと言ったのだ。夢の中で、貝を食べる自分を見たらしい。母親は、驚くと共に、貝など食べらして、かえって身体に悪い影響が出ては困る、と、医師に相談した。
「まあ、もう、手は尽くしたキニ、最後に本人が食べたい、ユウがやったら、貝でも何でも、食べライチャリ!」
と、医師は『最後の晩餐』のように宣告したのだった。
母親は、鮮魚店で、捕りたてのサザエを買って、もうこれ以上、柔らかくならないほど、煮込んだ。それを小さく刻んで、息子の最後の食事と覚悟して、ベッドの脇に置いたのだ。
後で知ったことだが、ナオキが夢の中で食べた貝は、真珠貝(=アコヤ貝)の貝柱を煮込んだものだったらしい。だが、ナオキは、サザエの剥き身の煮込んだものを、美味しそうに平らげた。
そして、奇跡が起きたのだ!そのあと、熱が下がり、食欲が回復し、一週間後には、退院できるまで身体が回復したのだった。医師は、唖然とするしかなかった。
「そりゃよかった!モモちゃんの孫を思う気持ちが、神様に通じたガよ!」
と、太夫は決して、自分の手柄にはしなかった。
桃枝は、その太夫の謙虚さをよく理解できていた。涙を流して、何度も礼を述べて、庵をあとにしたのだった。
「よかったですね……!」
と、桃枝ばあさんの背中を見送りながら、スエが呟いた。
(わたしも早く、災いから、人を救うようになりたい……)
※
「お祓いをして欲しいガかね?」
祈祷場の椅子に座っているのは、青ざめた顔をしている、中年に差し掛かったくらいの歳に見える男だった。顔色以外なら、まずまずの男前だ!着ているスーツも、ツルシではなさそうだ。
「そうなんです!毎晩、『金縛り』になって、首を絞められる夢を見たり、崖から突き落とされる夢を見たり、で……、夜寝れないのです……。そしたら、下宿屋のおばあさんが、ここを紹介してくれて……、何でも、死にかけていた、お孫さんが、奇跡的に助かった、そうで……。医者がサジを投げた状態から、わずか、一週間で……」
「おや?あんた、桃枝ばあさんトコの下宿人かよ?」
男は、山田隆夫と名乗って、見た目より若い、二十八歳だ、と言った。先日、孫に憑いていた死霊を祓ったばあさんは、古いアパート経営をしている。規模的には、下宿屋とほぼ変わらないし、隆夫のように、食事の用意を頼む、若い勤め人もいるのだった。
「あんた、誰かに恨まれるようなことをしてないかよ?」
半紙に、氏名と生年月日、そして、今回は出身地を書かせて、御幣を上に置いた。そして、太夫が隆夫に尋ねたのだ。
「う、恨まれる?いえ!僕はあまり、人付き合いもないほうで……」
「独身かよ?彼女は?」
隆夫がまだ答えを言い終わる前に、太夫は続けて、質問をした。
「彼女は、居ません!もちろん、女房も……」
「オナゴに悪さをしたり、センかったかえ?」
「悪さ?」
「つまり、不埒な、イヤラシイ行為ですよ!『エッチなこと』と言ったほうが、わかりやすいか、な……」
と、太夫の傍らに座っているスエが隆夫に説明した。
「いえ!まったく!職場には、女性はほとんど居りませんし、女性と最近話したのは、桃枝ばあちゃんくらいです!」
隆夫は、水産試験場に勤めていて、魚や海藻の世話をしている。ここ数年、女性と親しく会話をする機会もない……、と自虐的に言った。
「おかしいノウ?確かに、女性の霊が、オマンに悪さをシユウ……」
「悪さ?」
「つまり、霊障!悪い霊がマトワリついて、あなたに災いをもたらしているんです!『祟り』と言ったほうが、わかりやすいかもしれません……」
同じ『悪さ』という言葉を隆夫は、また尋ねて、それにスエが答えた。
「た、祟り?女性の霊が、僕に祟っている、というのですか……?」
と、隆夫はますます、青ざめてしまう。
「ふむ!祟られているほうには、心当たりがない!か……?チックと面倒じゃノウ……。人違いの生霊の祟りとは……、マッコト、珍しいキニ……」
※
「御札と御守りで、大丈夫でしょうか……?」
不安気な様子のままで庵をあとにした隆夫を見送って、スエが尋ねた。
「ふむぅ……!今回は、生霊じゃ!祓って、成仏させたら、仕舞いの死霊とは違う!しかも、思い当たる節がない!相手も特定できん!祓いようがないキニ……」
「面倒な霊ですね?つまり、人違いで、あの人に取り憑いたってことですよね?そしたら、まずは、人違いですよ!って、教えてあげないと……」
「おや?スエは、生霊に味方しチャルガかよ?」
「いえ!味方だ、なんて……。ただ、生霊になるくらい、特別な理由がある人なんでしょう?なのに、ターゲットを間違っているんですから……、気の毒ですよね?いつまで祟っても、目的は達成できないのですから……」
「ハハハ!気の毒かよ?スエは優しいねぇ!アテは、生霊になるようなオナゴは、大嫌いヤけんど、確かに、気の毒なところもあるねぇ……。よし、今回は、スエのその『優しさ』に、賭けよう……」
「はあ?生霊に対抗するのが、『優しさ』ですか?祈祷とか、真言とか、ではなくて……?わけが、わからないのですけど……?」
「そうじゃ!わけがわからないことは、その尻尾から遡って、頭(かしら)にたどり着くしかない!」
「尻尾から?生霊に尻尾があるのですか?」
「生霊自体ヤないよ!その影、ユウか、それが現れる時と所よ!そこで待ちヨッタら、生霊から、本体にたどり着くことができるはず……」
「ええっ!その時と所って、あの隆夫さんの寝室、しかも、真夜中ですよ!誰が、そんな所で、待ちぶせするのですか……?」
「そりゃあ!もちろん……!」
※
「お師匠さま!わたしは、か弱い、まだ十六の小娘ですよ!しかも、処女!そんなわたしが、なんで、『夜這い』みたいに、真夜中に、男性の寝室に潜り込まねばならないのですか……?しかも、お師匠さまは、側にいない!身を守るのは『荼枳尼天』の護符だけ……」
スエは、今、山田隆夫がイビキをかいて、寝ている、四畳半の座敷にいる。太夫が桃枝ばあさんに理由を話し、隆夫の部屋の鍵を開けてもらって、スエは巫女装束で、四畳半の障子の前に座っている。時刻は、午前2時過ぎ。もし、誰かがこの場面を目撃したら、スエ自身が、『悪霊』か『座敷わらし』と、間違えられそうだった。だが、幸いにも、その『誰か』は現れない。つまり、スエは独り言を呟いているのだ。
(そろそろ、現れる頃ね!たぶん、女は、『丑の刻参り』を模倣している。だから、現れる時間帯は、この時間帯……)
スエが心を無にして、真夜中の空気に溶け込んで行く。すると、今までイビキをかいていた隆夫がイビキを止め、急に掛け布団が激しく動き始めた。
「ウッ!ウッ!く、苦しい……」
掛け布団が弾かれ──隆夫が蹴飛ばしたとは思えない勢いで──寝間着姿の隆夫の全身が敷き布団の上で、もがいている。誰かが彼の首を絞めているかのようだった。
次いで、彼の身体がピンと大の字に伸ばされると、今度は、敷き布団に貼り付けられたように、身動きできなくなった。彼が言っていた『金縛り状態』なのだろう。
「もし!わたしの声が聞こえますか?」
スエが、闇に溶けていた気配を表して、四畳半の空間に語りかけた。すると、隆夫の身体が、カタリと動き、隆夫がイビキをかき始めたのだ。
「あっ!逃げないで!わたしは、あなたの敵ではありません!巫女装束をしていますが、あなたを封じ込めるための衣装ではないのです!」
と、微かな空気の渦に向かってスエは言葉を投げかけた。
「敵ではない?嘘をつけ!巫女装束でこの場にいるのは、この男を守るためであろう?ならば、わたしの邪魔をする、敵であろうが……?」
空間から、人語が聞こえてきた。女性のアルトの声だ。
「いえ!わたしはあなたと、お話がしたくて、この場で待って居りました。確かに、わたしは、太夫の弟子。人間を霊障から守る生業をしております。だからといって、すべての霊を敵にしているものではありません。まず、あなたさまの、この山田隆夫という男に祟る理由を、お教えください!」
「それを訊いて、どうする?結局、祈祷でもして、男を救う手立てを考えるのであろうが……?」
「いえ!まずは、あなたさまが、間違っていることを、ご指摘いたします!」
「間違っている?何を可笑しなことを言うのだ!この男、『ヤマダ・タカオ』であろうが……?」
「ヤマダ・タカオなんて、何百人といますよ!たぶんですけど……。それで、お訊きしたいのです!どんな『怨み』で、どんな『状況』の出来事なのか……?」
「変わった巫女だな?怨みの元を知りたいか?知れば、お前も『怨み』の対象となるぞ!」
「かまいません!たぶん、対象にならないと思いますけど……」
「フフフ、ならば、教えてやろう!この男は、わたしと結婚の約束をして、──もちろん、男女の関係をして──わたしが結婚資金として貯めていた預金を、儲かる投資があるから、と騙して、結局、金を持ち逃げしたんだ!結婚詐欺師なんだよ!」
「その詐欺師が、ヤマダタカオと、どうしてわかったのですか?」
「結婚するんだよ!ちゃんと、戸籍を調べたさ!高校時代の友人にも、紹介されたよ!お酒の席で、思い出話をしてね……」
「詐欺師ですよ!戸籍も、その友人も、思い出話も、嘘っぱちに決まっているじゃないですか!」
「でも……、ここに、ヤマダタカオがいるよ!生年月日が一致しているし、出身の高校も合っているし……」
「あなたは、生霊ですよね?霊魂だけが、ここにきている。この暗い部屋で、彼の顔を確かめましたか?」
「い、いや……、顔は……。しかし、霊媒師が……この男だと……」
※
「ほうぅ!それで、生霊は間違いに気づいたのかエ?」
翌朝、徹夜明けのスエに、太夫が尋ねた。
「はい、持っていた、懐中電灯で、隆夫さんの顔を照らしたら、『こんな顔ヤない!石原裕次郎みたいな、二枚目ヤ!』って、激怒して、『あの霊媒師、騙したな!』って、今度は、霊媒師に祟りそうだったんです……」
「あら、あの山田隆夫も、そこそこ、二枚目やったケンド……」
「お師匠さま、二枚目とかの問題ではありませんよ!あの生霊の本体は、男に騙され、霊媒師にも騙された!高い料金を払ったようなんです……」
「それで、スエはどうしたガゾネ?」
「まず、生霊さんに、お名前を訊きました。それから、その霊媒師のお名前も……。わたしにできることがあるかもしれないから、少し時間を下さい!と言って……」
生霊は『アイコ』と名乗った。歳は二十九歳、『もう、崖っぷちよ!』と、自虐的に語る。
何度か、恋もした。見合いも……。だが、何故か、あと一歩のところで、終わってしまう。理由もわからないことがあれば、相手が事故で亡くなったこともある、という。
「ふむぅ!どうやら、その本体に、別の霊障があるね!」
と、太夫が話を一旦遮るように言葉を入れた。これは、その本体に取り憑いている『霊』に、スエの気配を感じさせないための、一種の『結界』なのだ!霊は、自分の存在を知られたくないモノが多い。アンテナを張っていて、自分の話題をしているモノには、警戒している可能性があるのだ!
「わたしもそう思いました……。それで、相談した霊媒師さんは、どなたで、どんな風に説明してもらったのか、を尋ねたのです……」
「その霊媒師とは……?」
「霊媒師として、看板を揚げているかたではなく、霊感が強くて、相談事を頼まれたら、占い師のように、アドバイスをしてくれるのだそうで、お名前は、神妙寺章子(じんみょうじ・しょうこ)さんというそうです……」
「神妙寺章子?まさか、木村章子のことヤないろうね!」
「あら?お師匠さま、章子さんに心当たりがあるのですか?」
「ムカァ~シ、ここで修行をしていたことがある娘よね!」
「じゃあ、わたしの姉弟子ですね?」
「残念ながら、才能はないね!本人は、霊感があって、霊が見える!というケンド、単なる、思い込みよね……。それで、ヒマを出した……。本人は、一人立ちできる、と勘違いしているようヤねぇ……」
「そうなんですか?わたし、そのショウコさんに会ってみようと、思うんです!そしたら、生霊の本体のアイコさんに、会えるような気がするんです!もうひとつの霊障のことも、わかるかもしれません……」
※
「あなた、中学生ね?学校でイジメにあっているでしょう?」
その午後、スエが訪れた場所は、寂れた尼寺を修復仕掛けている、と思われる、庵だった。その雨漏りがしそうな、座敷の部屋で、尼僧姿の中年──もちろん、女性──がセーラー服に、ポニーテールのスエを前にして、まず、そう言ったのだ。
「いえ!ご相談は、わたしの知り合いのアイコさんのことです!」
「アイコ?」
「ええ、結婚詐欺にあって、その詐欺師のヤマダタカオを懲らしめたい!と、ご相談にきたと思うんですけど……?」
「あなた、そのアイコという人と、どんな関係?例え、そう、アイコさんがここへいらっしゃった、と、しても、よ!他人に教えられるわけ、ないでしょ?」
「わたし、アイコさんの従妹になります!母方の……。アイコさんと、連絡が取れなくなって……。彼女、結婚すると決めて、とても幸せそうだったんです!そして、その次に会ったら、騙されて、結婚資金のお金まで、持って逃げられたって……。エッチまでしていたのに……って……」
「ま、まあ!中学生のあなたに、そこまで話したの?ずいぶん、仲のいい従妹さんなのね?そう、連絡が取れないの?いいわ!ちょっと、霊視をしてみるわ……」
ショウコは、そう言って、大きな水晶玉をテーブルの上に置き、何やら、呪文を唱え始めた。尼僧姿とは、まるで『ちぐはぐなアイテム』だ。
「三好アイコは、今、何処におります?守護霊さま、お教え下さいませ……!」
(三好アイコか……。二十九歳、独身!あとは、住所ね……)
「先生!アイコさん、お家で、自殺なんて、ことはないでしょうね……?」
「ええっ?ちょっと、今、霊視しているところよ!そう!危ないわ!はやまったことになりそうよ!北東の方向で、大凶のシルシ!アイコさんのマンションがある、◯◯町の方向よ!」
「ありがとうございました!わたし、すぐ行きます……!」
と言って、スエは急いで、ショウコの庵を飛び出した。
「あっ!相談料……!」
※
「それで?アイコさんには、会えたガかね?」
「もちろん!◯◯町にマンションは、ひとつしかありませんから、三好アイコ、二十九歳、独身女性!マンションの住民に訊けば、すぐ、ですよ!しかも、彼女も徹夜明けで、部屋にいました……」
「それで?アイコに、何ぞ悪い霊がついチョツたかね?」
「それが、わたしの顔を見た瞬間に、何かの動物霊というか、妖(あやかし)がアイコさんの身体から、抜け出したのです!素早くて、正体を確かめられませんでした!アイコさんは、その妖が居なくなった所為だと思うのですけど、パッと明るい笑顔になって、わたしを部屋に迎え入れてくれました……」
アイコは、巫女姿ではないスエを、昨夜というより、今日の早朝会った少女だと、認識していた。そして、ヤマダタカオが人違いだったことを認め、正式に警察に被害届を出した、と言って、スエに頭を下げたのだ。
「ほおぅ!ソイタラ、ヤマダタカオの生霊の祟りは、解決したガやね?」
「ええ、そっちはもう、祟られることはないでしょうけど……、結婚詐欺の解決にはなりませんよ!それと、ショウコという霊媒師は、悪徳な相談料金をとっているみたいですよ!当たりもしない、水晶占いをして……」
「まあ、そのふたつは、その内、また関わりを持つことになるロウ……。それより、アイコに憑いチョッた、獣の妖、ユウガが、気になるねぇ……。スエがお祓いをするわけでもないニ、何を警戒したガやろうね?」
「わたしが身に着けているのは、『荼枳尼天』の護符だけですよ……」
「あら!あんた!あれから、ずっと身に着けチュウガかね?なるほど……。荼枳尼天を怖がるってことは……」
「狐ですか?」
「いや!狐は身内ヤキ……、おそらく、イタチか、テンの仲間やね……」
(※) この物語は、あくまでフィクションですが、三話の死霊に憑かれた子供の部分は、作者の実体験を元に、脚色しています……。
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