第2章 四国に狐は、住んだらイカン?

第一話 四国に狐は、住んだらイカン?


「お祓いをして欲しいガは、あんたかね?」

と、白装束の太夫さんが尋ねた。

「はい……、最近、妙に、悪いことが続くもんで……」

と、太夫の前に正座をしている、中年の男が言った。

客は、ふたり連れで、もうひとりは、若い女性だった。男とは、親子ほど歳が離れているようだが、本人の申告では、夫婦ということだった。

「ふうん、自転車とぶつかって、腰を打った……。財布を擦られた……。一昨日には、納屋がボヤで半焼した……かね?」

「ええっ!ど、どうイて、知ッチュウがです?」

ズバリと当てられて、男は驚く。

「奥さんは、ずいぶんと若いケンド、ヨソから来たガかね?」

と、太夫は男の疑問には答えず、男のやや斜め後ろに座っている女性に声をかけた。

「ヨソ?」

「つまり、県外とか、遠い所の『ご出身』ですか?と、お尋ねしています」

太夫の脇に座っているスエが、『ヨソ』という意味を説明する。太夫は時折、話が飛んだり、意味不明な単語を口にするので、スエはこうして、客人に説明することには、慣れていた。

「ああ、よくおわかりで……。ええ、関東の出でして……。秩父の山奥の田舎者(もん)ですが、まあ、器量がよくて、働きもんで……」

と、男はテレたように、女の出身を語った。

「まあ、命に別状があるような災いやない!ヘタに触ると、災難が大きゅうなるかもしれんキ、今日のところは、御札と御守りを渡しチョコウ!火事より、怖いことがあったら、また連絡シイヤ!」

太夫はそう言って、神殿前に置いてある、祈祷済みの御札と御守りを一組、手に取り、額の前に両手で捧げるようにすると、「エイ!ウン!」という奇声を発した。御札と御守りに、特別な念を込めたのだった。

男は、拍子抜けがした表情で、それを受け取る。

(盛大、とはいかなくても、何か『ご祈祷』をしてもらえると思っていたのに、ただの御札と御守りだけとは……。まあ、ご祈祷代が安く済んで助かった、とも言えるか……)

男は、太夫とスエに礼をして、いくばくかの謝礼金を支払い、祈祷場を後にした。女房という、若い女性は、一言も喋らないままだった。

「問題は、あの若い奥さんのほうですね……?」

と、ふたりの背中を見送りながら、スエは呟いた。

「おや!あんた、あれが見えたかね?」

と、太夫が驚く。

「はい!女性の肩に、青白い靄(もや)がありました。形が、狐のようにも見えました……、でも、それほどの悪意の波動は、感じませんでしたけど……」

「スエ!あんた、あれが狐に見えたかね?よしよし、スエ!あの奥さんの霊障はあんたに任す!ここで祈祷して、あの霊をお祓いしても、コトは治まらんやろうキニ、あんたが出張して、あの『お狐さん』と話しをしてキィ……」

「本当に、わたしで大丈夫やろうか?お祓いなんてしたことないし、あれが狐の妖怪が憑依している、としたら、化かされてしまいそうだし……」

スエは、セーラー服姿だ。つまり、中学時代の制服だ。太夫という商売は、それほど儲かる生業ではない。太夫とスエふたりが、普通の生活をするのが、やっとくらいの収入だった。だから、スエはヨソイキの服は持っていなかった。巫女衣装で訪問してもよかったのだが、太夫は、

「祈祷や、お祓いに行くガやないキ、普通の格好で行きヤ!『お狐さん』と話をして、何で悪さをするのか、訊いてくるだけで、エイガヤキ!」

と、言って、『御守り』を渡してくれた。太夫の言うには、『荼枳尼天(だきにてん)』の護符であるらしい。荼枳尼天は、稲荷神と習合しており、白狐をお使いにしているそうだ。だから、あの若妻に憑依している、『お狐さん』には、最も効き目がある、というのだが……。

「こんにちは……」

スエが声をかけた家は、古い門構えの郊外にある、農家だった。と、いっても専業農家ではない。主人は運送業をしている、と訊いている。だから、元農家といったほうが正しいのかもしれない。門を入って、母屋の玄関に着くと、玄関は、洋風のドアで、縁側はサッシのガラス窓に変わっている。和洋折衷の建物になっているのだ。

母屋の右手奥に、木造家屋が、半焼して焦げ臭い臭いを漂わせている。主人がいっていた、ボヤが出た、納屋のようだ。その手前に、小さな檻があり、ポインターと思われる洋犬が、スエの臭いと姿に吠えかかってきた。

「はい、どちらさんですか?」

そう言って現れたのは、若い女性だった。この前に会った若妻ではない。

「わたし、先日、ご主人がお出でました、薫的さんの側で、太夫をしている者の弟子です。その後、お変わりないか、心配になりまして、お伺いしたのですが……、ご主人か、奥さまは、ご在宅でしょうか?」

と、スエは柔らかい言葉で、訪問の意図を伝えた。

「あら、祈祷師の弟子なの?変な霊がついているとか、親父に吹き込まなかったようね!わたしは、きっと、そう言われて、高い祈祷料を取られるわよ!って言ったのに、御札と御守りだけで、安くついたそうね?それで?謝礼金が少な過ぎる、ってことかしら……?」

「あっ!娘さんでしたの?でも、あの奥さまのお子さんではありませんよね?」

どう見ても、あの若妻と、ほとんど年齢が、この娘は変わらないだろう。

「ええ、あの人は、後妻よ!わたしは母親とは思ってないの!生憎、親父はいないわ!あの女なら居るけど……?」

「ええっと……、その後妻さまに、お目にかかって、お話ししたいのですが……」

「いいけど!あの女から、何か頼まれても、お金は出せないからね!裏に回って!裏庭の縁側で、話をすればいいわ!」

娘はそう言って、裏庭の方向を差し示し、

「オオイ!あんたに、お客だよ!風呂掃除は後にしていいから、お茶でも用意して!裏庭に回ってもらうから、さ……」

と、玄関から中に向かって大声を出すと、ドアを閉めて、姿を消した。

スエが娘に示された方向から裏庭に回ると、庭は、キュウリとナスが蔓を伸ばした、菜園になっていて、脇には、鶏が数羽入っている小屋があった。

「どうぞ、こちらへ……」

鶏に見惚れていたスエの背中に、女性の声がかけられた。振り向くと、昨日の若妻がお盆に湯飲みを乗せて、縁側に立っていた。木綿の着物にモンペ姿。ひと昔前の農家の奥さん姿だ。ほっそりとした身体つきで、首が長く、モディリアーニの肖像画の女性のようだ。ただし、瞳は大きく、輝いていて、主人がいっていたように、美人だ。先ほどの義理の娘とは、比べようもない。

「はい、お邪魔します。先日、ご主人とお出ていただいた、太夫の弟子です。その後のことが気になりまして……」

と、スエは縁側に腰をおろしながら、訪問の理由を述べた。

「あら、昨日のお弟子さん?まだ、中学生だったの?」

と、若妻は湯飲みを縁側のスエの横に差し出しながら、驚いたように言った。

「あっ!いえ、この格好は、目立たないためで……、中学は今年の春に卒業しました」

「あら、そうなの?よく、お似合いだわ……。それで、太夫さんは、何か災いが起こりそうだ、と言っているのかしら?」

「いえ、災いは、起こらないと思います。けれども、すべてが解決したわけではないのです。わたしが、お伺いしたのは、お祓いとか、ご祈祷ではなくて、奥さまのことをお話ししていただきたくて、参りました」

「わたしのこと?主人じゃなくて……?災いにあっているのは、主人のほうよ?」

「はい、申し上げ難いのですが、災いの原因は、奥さまのほうにありそうなのです……。奥さまの過去と、現在の環境が、どうも、今回のご主人の災いを引き起こしているようなので……」

「ええっ!じゃあ、わたしが納屋に火をつけたって、おっしゃるの!?」

と、若妻は、柳眉を上げた。

「まさか!そんなことは申しません!ちょっと、説明しにくいのですが……、奥さまには、ある霊がついています。いえ!悪い霊ではありません!奥さまを守ってくれている、善良な……、守護霊に近いモノです」

「守護霊?そんなモノがついるの?」

「心当たりはありませんか?危険な状況から、助かった、とか……、偶然、幸運に巡りあったとか……?」

「わたしは、幸運なことなんてありませんよ!貧しい農家の子供で、口減らしのために、女郎屋に売られるところだったんだから……。そんな時、今の主人が、荷物をトラックに載せて、庄屋さんのところへ来たのさ……。娘さんの婚礼があってね!その頃、庄屋さんの家で、下働きの手伝いに行っていた、わたしを見初めて、後妻に欲しいと申し込まれたのさ……」

 ちょっと、言葉遣いがつっけんどんになっている。彼女に憑依している『お狐さま』が顔を覗かせ始めたようだ。どうやら、スエに対する、警戒感が薄れたのだろう。

「それって、幸運ですよね?女郎屋って、つまり、性を売りものにするところですよね……?」

「ああ、そうか、中学校を出たばかりなら、女郎屋なんて、わからないよな……?だけど、この家の嫁っていったって、中身は?女中働きと同じだぜ!いや、女中より、酷いかな?女中なら、給金は貰えるし、夜のお勤めは、しなくていいか、別料金だからな!あっ!こんな言い方も、理解しづらいかな?」

「そうなんですか?それで、『お狐さま』は怒っているんですね?」

「お、お狐さま?な、何を言っているんだ……?」

「秩父の山に住んでいた、子狐さんが、ワナにかかっていたのを、子供の頃の若奥様が助けてくれたんでしょう?それから、あなたは、狐の妖力を身につけて、彼女を守るために憑依したんですね?でも、何故、ご主人に悪さをするのですか?もし、ご主人が亡くなったら、あなたはこの家から、追い出されますよ……?」

「おまえ、そこまでわかるのか?昨日、会った時には、ホンの少し、霊や物の怪が見えるくらいだったはずだ!」

「自分でも不思議なくらい、あなたの心の一部が覗けるのです……。わたしも『口減らし』にあった人間ですから……」

「そうか!このヤスエと周波が合うんだな?おまえは悪い人間ではないようだ!いや、オイラが会った人間の中では、特に純粋な心を持っているようだ!よし、おまえにオイラの気持ちを話してみよう……」


「それで、スエはどうしたいガゾネ?」

帰って来たスエからの報告を訊いて、太夫は、逆に尋ねた。

「お師匠さま!本当に、『四国には、狐は住んではいけない』のでしょうか?」

「狐の妖(あやかし)が、そうユウタかね?それは、お大師さんの結界の所為よね!」

「お大師さん?」

「四国で、お大師さん、ユウタら、弘法大師、空海さんのことよね!昔、四国にも狐がおって、悪さをしよった。狸の妖が怒って、狐と狸が戦になった。その影響が民を苦しめることになったキ、空海さんが、戦をやめライた!戦の原因となった?狐の妖たちに、罰として、四国には、住めんように、追い出して、入って来れんように、結界を張ったガヤそうな……。確かに、動物の生態系調査でも、四国に狐はあんまり、居らんそうじゃ!狸は、ヨウケ居るけんど……。その生態系の説明に、後世の人が、四国出身の空海さんのなせる業や!と伝説を作ったガやろうね……」

「伝説なんですか?」

「伝説、ヤっても、妖たちには、効き目のある結界ナガよ!ホヤキ、四国には、狐の妖は居らんガよ!」

「じゃあ、やっぱり、ヤスエさんに憑いている『お狐さん』は、四国に仲間が居らんのですね……?」

「ホウよ!ヤスエのように、ヨソから四国に嫁いだ、女性に憑いたままで、海を渡って来るしかないろうキに、ね……」

スエに自分のことを語った『お狐さん』は、名前を『コンペイ』と名乗った。秩父の山には、狐が沢山住んでいて、妖力を得る狐もいる。コンペイの母親は、特に強い妖力を持っていたようだ。兄弟の中では、コンペイと姉のコンジョとの二匹が妖力を授かった。子狐の頃、ワナから救ってくれた少女に、礼がしたい、と姉に言って、コンペイは下界に降り、ヤスエを見守るようになった。ヤスエの家は、小作農家で、子沢山。男は労働力になったが、女姉妹は、数はいらない。幼い頃から、ヤスエは女中奉公や、子守りとして、他家で働かされた。器量がよかったのが、かえって災いとなり、幼いのに、他家の男の欲望の的になった。コンペイは、そのたびに、妖力を発揮して、ヤスエの身を守ったのだが、夜、昼なく、魔の手が伸びるようになり、ヤスエの身体に憑依することになったのだ。

そして、ヤスエの器量に目を付けた『女衒』の男が、相場の倍の値で、ヤスエの身体を買おうと、申し出た。コンペイは、姉に相談し、四国に住む、良吉という、トラックの運送業をしている男が、後妻を探していることを突き止め、庄屋の娘の嫁入りの『お道具』の運送を機会に、ヤスエを良吉の後妻に添わすことにしたのだった。

良吉は、ヤスエに一目惚れをして、それなりの持参金をヤスエの両親に渡し、後妻として、ヤスエを迎え入れた。

ヤスエは、良吉にとって、三人目の妻だ。一人目は、娘を出産したあと、病で亡くなった。二人目は、その娘と、折り合いが悪くなり、いくばくかの『慰謝料』を貰って離縁した。だから、良吉の家族は、最初の妻との間に出来た、ヤスエとほぼ同年代の娘だけである。

良吉は、まあ一般的な善良な人間だったが、娘の八重子は、祖父母や周りの人間に甘やかされて育った為、わがままの固まりだった。良吉の先妻を下女同様に扱い、野良仕事から、家事一切をやらせて、自分はお姫様状態だったのだ。良吉も八重子には甘く、先妻の苦言を訊いてはくれなかった。良吉の両親が亡くなると、先妻への待遇は、より酷くなって、先妻は離縁を求めたのだ。良吉は、引き留めたが、娘の八重子が先妻を嫌っていたため、謂うなりの慰謝料を払うことになった。

「だから、あのお家(うち)の災いの元凶は、イカズ後家の八重子さんにあるようなんです。八重子さんがいなければ、ヤスエさんは、普通の主婦でいられるはずなんです」

「しかし、狐のコンペイは、娘ではなくて、主人の良吉に災いをもたらしたんだね?つまり、娘の八重子には、別の何かが憑いているんだね?」

と、スエの説明の終わりに、太夫が確認するように訊いた。

「わたしが会った時は、見えなかったのですけど、コンペイさんのおっしゃるには、八重子には、狸の妖が守護しているというんです。四国では、狸の妖力が強いらしくて、コンペイの術は、八重子には、効き目がないそうです。コンペイに手を貸してくれる妖はいなくて、本物の狐も生息していないみたいで……」

「何や!コンペイゆうお狐さんは、寂しいガかね?仲間が居らんゆうて、あんたに愚痴をゆうとは……。ホイデ、『四国に狐は住んだらイカン』ガか、訊いたガかね?妖、ゆうても、まだ、『ひよっこ』ナガやね……。妖力も、たいしたことは、ないようやね……。その八重子ゆう娘にちょっかいを出したら、反対に、やっつけられそうヤ!」

「狸の妖、って、妖力が強いのですか?」

「いや!一対一なら、狐の妖力が強いロウ!お稲荷さんがバックに居るキ!ケンド、四国には、狸の妖の数が多い!その辺の雑木林に居る、マメ狸にも、それなりの妖力があるキ、狐が一匹では、勝ち目はないよ!」

「そしたら、ヤスエさんの待遇は、今のまま……、コンペイさんは、それが不憫に感じているんです……」

「アテから見たら、ヤスエの境遇は、ましなほうヤと、思うケンド、コンペイにしたら、命の恩人ヤキねぇ……。もう少し、幸せにしたいガやろうね……?ホイタラ、手は、ひとつよね!」

「ええっ!お師匠さま、何かいい手があるのですか?」

「あの家(うち)から、八重子が居らんなったら、エイガやろう?」

「八重子さんを追い出す!言うのですか?狸の妖が黙っていませんよ!」

「無理やり、追い出したら、そりゃ、怒るロウ!ケンド、自らが、喜んで出て行くなら、狸も喜ぶロウがね……」

「自ら……?あっ!お嫁入り……?」


「高砂やぁ~、この浦舟に、帆をあげて~」

能の演目である『高砂』の一節が、二十畳程の日本間に響いている。

良吉は、もう涙で手拭いを濡らしている。『イケズ後家』と、陰で揶揄され、親戚からも、『あんな、狸顔の醜女を嫁に欲しいという、物好きは、居らん!』と、縁談を頼んでも、門前払いをされていた、愛娘の八重子に、突然、見合い話が持ち上がり、あれよあれよ、という間に、婚約、結納、そして、本日の婚礼……。あっという間の出来事だった。

夏の終わりに、太夫さんところで、御札と御守りを授かって、わずか、二月(ふたつき)のことだ。

(災い転じて福となす!とは、このことよ!)

と、良吉は、神棚に奉った『御札』に柏手を打った。

ただひとつ、心残りなのは、この縁組が、婿養子を迎えるのではなく、八重子を嫁に出すことだった。

(跡取りがノウなる……)

しかし、それは、自分の希望である。娘は、この縁組を心から喜んでいる。いや、親戚中が、大喜びなのだ!

新郎は、八重子より、ひとつ年下だ。大阪の商家の生まれで、大学を出たあと、国家公務員になり、この高知に赴任してきた。春には、次の赴任地に行くことになっている。なかなかの二枚目で、背も高い。つまり、『三高(=高学歴、高収入、高身長)』の条件、ぴったりの男性だ!

そんな人物が、何故、よりによって、醜女の八重子を選んだのか?理由はいくつかあった。

まず、器量である。大阪の実家では、『美人の女将は、店を潰す!』と、家訓があったらしい。だから、新郎のケンイチの母親は、八重子に似た『狸顔』だった。ケンイチは、醜女を気にしない、ばかりか、醜女でないと、惚れない男だった。

次は、年齢だ!『ひとつ年上の女房は、金の草鞋を履いて探せ!』と、言われている。

だが、最大の理由は、実家の女将が懇意にしている『占い師』が、易を立てて、『ケンイチの嫁が、今、ケンイチの側に現れた!狸顔のひとり娘で、末広がりの名前の娘。この娘を嫁にできれば、末代まで繁盛間違いない!』と、告げたのだ!

すぐに、末広がりの名前を持った『狸顔』のひとつ年上の女を探すと、ケンイチの勤め先の上司が、良吉の友人であり、『狸顔』に、ピンと閃いたのだった。

あとは、トントン拍子だ!八重子に『否、応』はなかった。ケンイチは、理想以上の男性だった。

もちろん、この縁組には、人ならない『モノたち』の力が働いている。

まずは、狐の妖であるコンペイを通じて、秩父に住む姉のコンジョに、計画を知らせた。

「それならば、抜かりがあってはいけませぬ!我が母上は、今、伏見稲荷に御使いしておりますれば、母上から、稲荷神を通じ、四国の狸の頭領にも、お話を伝えておきましょう!」

と、狐のネットワークを活用し、四国の狸にも、礼を尽くした。

狸のほうも、眷属が守護している娘の幸せになる計画と知り、四国の狸を結集させて、婿選びに奔走した。その努力の結晶が実を結んだのだった。

「狸と狐が手を取り合って、お二人の女性に幸せをあげることが出来たのですね?」

と、三三九度の盃を交わしている、新郎新婦と、涙を流している父親の隣で、笑顔を浮かべている、義理の母親を末席から見つめながら、スエが太夫に言った。

「二人の女性だけやないキニ!あの夫婦と、もうひとり、まだ、この世には、顔を見せてないケンド、男の子も幸せになるキニ!それと、四国に狐が入ってもエイようになる!もうすぐに、本州と四国を繋ぐ、大きな橋ができるキ……」

「ええっ!ヤスエさんのお腹に、赤ちゃんがいるのですか?それが、男の子?それと、瀬戸内海に橋が架かるのですか?それって、凄いことですね……!」

「どうも、アテが渡した『御札』と、スエが身につけてる『荼枳尼天』の護符が相乗効果になって、旦那さんがあの夜、その気になったガよ!あっ!スエには、まだ、ヨウわからん世界やったね!ハハハハ……」

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