第15話 暗躍

「昨晩、山部がここに来たのか?」 翌日の朝、三上の入院する病室には警部の加木が訪れていた、「えぇ、わざわざ姿を出してきたのは、何か理由がある筈です、」 三上は出血してしまった右手の治療を終えると、病室の窓をじっと眺めながらそう加木に意見した、「後で防犯カメラの映像を調べるよう話してくる、それよりも三上、」

「どうしたんです?」  加木は突然、口調と目付きが変わり、三上の名を呼ぶと、自身のバッグから一つのファイルを取り出してきた、「お前に見て欲しいものがある、」そう話すと、加木はファイルの中に閉じていた資料を抜き取り、三上に差し出した、三上は受け取った資料をすぐに目にした、資料に掲載されていたのは、一つのクロスペンダントが撮られた写真であった、「そのペンダントを見て何か思い当たることはないか、三上、」 資料を目にする三上に加木は問いかけた、「このペンダント…どこかで見たことがある気がします、!、戸熊一家が殺害された現場に落ちていたペンダントに、似ています!」

突然思い出したかのように三上は資料から目を離し、加木の方を振り向いた、「このペンダントは、殺害を行った桐生と言う組員が匿われていた事務所に保管されていた、そして、このペンダント、日本では販売されていない海外の製品、偶然同じものを持っていたとは思われない、」

「確か、殺害現場で押収されたペンダントは指紋の付着なしで証拠不十分として片付けられていましたよね?」    二人は目を合わせながら、何か期待が膨らむような空気感が流れ始めた、「今このペンダントは鑑識に調べて貰っている、証拠によっては、捜査がより進展するかもしれない!」 そう加木は力強く三上に言い寄ると、肩を掴んで大きく頷いた、「加木さん、動けない私の分までよろしくお願いします!」 三上も力強くそう応えると、加木の両肩を掴んだ、「後は任せておけ、」。





夜の7時、高層ビルの窓から見える夜の都市部を見下ろしながら、斎藤はどこか険しさのある無の表情で何かを考え込んでいた、やがて、スーツのポケットに閉まっていた携帯を取り出すと、ある人物に連絡を掛け始めた、「ブー、ブー、」 しばらくの間着信音が鳴り続けていると、着信が切れる寸前に通話が応答された、「何か掴めたか?」  斎藤は鋭い視線で窓を見つめ、単刀直入に電話の相手に問いかけた、「情報を掴み取りました、確実に彼らが繋がっていることはもはや明確だと思われます。」    「そうか…御苦労だったな。また久し振りに会わないか、桐生………」

斎藤はそう言葉を掛けた。




その頃、同じ時刻で、加木は安藤を連れて鑑識課のもとを訪れていた、鑑識から渡された証拠品の結果が記された資料を加木は受け取ると、隅々まで目を通していた、「加木さん?指紋は誰が付着しているんですか?」  安藤は気になる様子で先に加木へ問いかけた、しかし、加木は安藤の問いかけに応えず、困惑した表情で資料を何度も読み漁っていた、安藤は仕方なく加木が目を通すのを待っていると、思いもよらない言葉が返ってきた、「安藤、お前には悪いが、後の捜査は私一人でやる、」   その発言に思わず安藤は驚きを隠せなかった、「急に俺を捜査から外す?、一体どうしてですか!」  すると加木は安藤に視線を向けて一言応えた、「これは極秘情報だ、署内に内通者がいれば、この証拠品が隠蔽されるかもしれない、あとは任せておけ、安藤、」 加木はそう発言し、動揺する安藤の背中に手を置いた。


10分後、刑事課へと戻ってきた安藤は腑に落ちない様子で足早に歩きながら、自身へのデスクへと座った、「安藤さん?鑑識の報告はどうしたんですか?」 刑事課の部署へと居合わせていた後輩刑事達が、安藤の様子を気になり問いかけてきた、「全く、捜査から外されましたわぁ!」 安藤は苛ついた口調で、デスクを叩くと、デカイ声で後輩達にそう応えた、「捜査から外されたんですか!?」 思わず驚いた様子を見せる後輩達の間に、安藤は一人の視線が気になった、視線を向けた相手は管理監の和田部であった、安藤は意を決して席から立ち上がり、刑事課の奥に置かれる、和田部のデスクへと向かっていった、「管理監、」 「悪いな安藤、上からの指示で、捜査員の数を減らすと言う方針が打診された、」

和田部は前に出る安藤に視線を合わせず、一言そう言い放ち、部署から退出していってしまった、「チッ!、」 安藤は更に怒りが込み上げてこようとしたその時、「ブー、ブー、」 スーツのポケットに閉まっていた携帯から着信が来た、バイブの振動に気がついた、安藤は仕方なく周囲を確認すると、その場から携帯を取り出し起動した。




夜のビル街の道路を一台の黒い高級車が走行していた、車のハンドルを握っているのは、斎藤であった、ライトアップされた綺麗な大通りを走りながらも、斎藤の表情は険しい様子であった、五分後、斎藤が運転する高級車は車道外側線へと停めた、斎藤は車のエンジンを切ると、ある人物を待ち構えるかのように、周囲を歩く人々に視線をちらつかせながら、運転席で座り込んだまま、時間を送っていた。




同じ頃、井崎が勤める○○商事では、既に退社時間は過ぎているものの、部長の村山は何故かひっそりと、暗い社内の廊下を足早に歩いていた、「コツコツ、コツコツ、」 会社には誰もいない静かな空気が流れ、村山は落ち着いた様子で自身のデスクへと戻ってきた、「フー、」息を吐きながら閉じていたパソコンを開けると、村山はマウスで画面に表示されている一つのファイルをクリックすると、そのファイルをゴミ箱へと、移動させようとした、その時、「こんな時間に何してるんですか?」   突然の呼び掛けに、思わず村山は驚きを隠せず、焦りながら慌ててパソコンを閉じた、ふと村山は声のした方を振り向くと、そこには、井崎の姿があった、「井、井崎!お前こんな時間に社内に残って何していた!」   

村山は動揺しながらも井崎にいつもの様な威圧的な言葉を投げ掛けてきた、「それはこちらの台詞ですよ部長、」 「 あ?、何だその口調は、上司に向かって失礼だとは思わないのかぁ!」

 「私の勘違いでしたら、非礼な態度だったと御詫びします、ですが、部長、会社の金を横長ししてますよね~?、フフッ」   そう話すと、井崎は不敵な笑みを浮かべ始めた、「馬、馬鹿な発言止めろ!、お前はただの憶測で上司に横流しをしたと問い詰めてくるとは、明日にでもお前を人事部に報告する、覚悟しておけ!」   

すると井崎は、足早に村山の近くへと歩いてきた、「経理部の北浜からのパソコンから、お前が横流した履歴が残ってんだよ!」 井崎は突然人が変わったかのように表情が怒りへと一変しだした、井崎の怒号に村山は思わず困惑してしまった、だが、「そんなこと、証拠でもあるのか!証拠でも!不良社員の分際で、ただで済むと思っているのか!!」 村山は等々怒りに満ち溢れて、井崎を睨み付けながら感情的になりながら、そう言い放った、「証拠?、そんなもの必要ない、」

すると、薄暗い社内の外から何者かが一人、こちらに歩いてきた、「、!」 二人の前に現れたのは、社長の平川であった。

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