第14話 クロスペンダント

「桐生は、織田会の傘下組織、新妻組に所属していた筈だ、幹部から聞いた話だ、間違いない、あともう一つ、桐生について情報がある、」

道路を走行する輸送車の窓側の座席に険しい表情でじっと外を眺める加木は、しばらくの間、輸送車が止まるまでの狭い車内で、取り調べの際に語っていた男の証言がずっと頭の中で流れ続けていた、数分後、窮屈な車内に座り込む機動隊達の表情は緊張感が溢れる顔つきに変わっていた、ふと加木は再び窓を覗くと、輸送車の外には、新妻組事務所が置かれたビルがそこにはあった、やがて輸送車がビル周辺の道路へと停車すると、指揮官の合図と共に、機動隊は一斉に輸送車から駆け足で降り出した、加木、そして同じく乗車していた安藤の二人は、隊員達の後ろへと着いていき、輸送車から降りていった、やがて機動隊はビル前の道路へと各々配置に着き始めた、加木は新妻組が置かれたビルの上を覗きながら、機動隊の間をすり抜け、先頭で組事務所へと乗り込んだ、「ドン、ドン、ドン、ドン!」一斉に階段を駆け上がってくる大勢の騒がしい足音と鳴らしながら、ようやく事務所の扉の前へと到着した、すると加木は機動隊の一人に目で相槌をうつと、腰元から拳銃を取り出した、そして次の瞬間、「突入ぅぅぅ!」加木の叫び声と同時に機動隊は、ドアを破壊し、組事務所へと入っていった、加木も後から続いて拳銃を構えながら中へと入ると、やがて廊下の奥にある大広間の部屋に、組長の新妻含む、複数の組員が異様な目付きで我々を迎えていた、加木は睨みを利かせ拳銃を構えたまま、この組織のトップである新妻に言い寄った、「ここに桐生と言う組員がいる筈だ、大人しくお縄について貰おうか、」   新妻を囲む周りの組員は、突然乗り込んできた機動隊達を睨み付けている、「てめぇら、令状あんのか?令状は!」  すると加木は後ろを少し振り向き、その場で呼び掛けると、背後から安藤がゆっくりと令状を広げて新妻達に見せつけるように前へと出てきた、「フッ、桐生?そんな男知りませんよ、刑事さん」  新妻は嘲笑うかの様に笑みを浮かべながら加木にそう応えた、「残念だな新妻、目的はそれだけじゃない。デパート内で襲撃をかけた犯人グループが、新妻組の構成員だと判明した、よって新妻、お前を逮捕する。」  すると加木はスーツの腰に用意していた手錠を取り出し、新妻のもとへ近付くと、そのまま手錠をかけた、新妻は静かに黙り込んだまま目の前に立つ加木の顔を睨み付けた、「連れてけ、」 加木はそう言うと、現場に駆けつけていた警官達は手錠をかけられた新妻を連行していった、「加木さん、結局、桐生という男はいませんでしたね…」 安藤はパトカーへと乗せられていく新妻の姿を見ながら、そう言葉を呟いて落胆した様子を見せた、しかし、加木は落胆するような表情は一切見せず、目を鋭くしながら組事務所の周りを見渡していた、そして、事務所の端に設置されているタンスの方へと駆け寄った、「何かあったんですか?」 安藤は気になって、周りのヤクザ達を押し退けて加木の後を着いていった、「ガチャリ!」加木はゆっくりとタンスの扉を開くと、中は埃っぽくなっており、しばらく開けらていなかった様子であった、すると、暗闇の中から1つだけ気になるものがタンスの中に置かれていた、「安藤…これは、現場に同じような物が置かれていたよな、」加木が手に取り安藤へ見せてきたのは、埃を被ったクロスペンダントであった。





その頃井崎は、警察からの容疑が晴れ、ようやく元の日常的な忙しい業務へと追われていた、「おい!井崎!」   「はい!」 営業部署の部長である村山に井崎は呼び掛けられると、慌てて作業していた自身のパソコンを閉じると、村山のもとへと向かった、「井崎、新規の事業案、明日までに全て纏めておいておけ、」 村山は井崎にそう言い渡すと、デスクに重ねられていた分厚い資料を井崎に渡してきた、「明日だからな!明日、」 井崎は妻にこれ以上の心配をかけない為にも、堪えながら分厚い資料を自身のデスクへと運び出した、急な作業に慌てて仕事に取りかかる井崎の姿を村山は、疑うような目付きでその姿を部長の席から覗いていた、「全く…優秀な社員に何てことさせているんだ、あいつは。結局井崎は犯人じゃなかったのか…」 心のなかでそう呟いていると、「村山部長…村山部長、」

突如横から名前を呼んできたのは、経理担当の北浜であった。

「このままじゃ、残業は確定かぁ、」パソコンに目を向け、必死に資料を打ち込むのに対峙しながら、そう呟いている時、営業部へと訪れてきた経理課の北浜が村山と密かに話し込んでいる姿が気になって、井崎の目に映った、すると、段々と村山の表情が深刻そうな表情へと変わり始めた、井崎は一度パソコンから手を止め、微かに二人のいる方へと視線をむけ会話を耳にしようとした、「……………、不味いことになってる、……………、」

二人の会話は途切れ途切れで聴こえてくる、その時、「すぐに来てください村山部長、」 北浜がそう呼び掛ける声が聴こえた、村山は応えることなく北浜の顔を見つめながら頷くと、二人は足早に営業部へと去っていった、その瞬間、井崎は突然意識を失うかのように、デスクの上で眠りについてしまった。





深夜の11時、外では急激な大雨が降りだし始めた、ポツポツと雨粒が窓に弾かれる音が三上が眠りにつく病室の中からも聴こえてくる、「うっ…うっっ……、」三上は何かに怯えているかのように魘されていた、その時、「ドドドンォォォォ!」突然の雷音が鳴ると、三上は悪夢から覚めるかのようにベッドから起き上がった、「はぁ...はぁ...」

額には冷や汗が流れており、着ていた病衣は汗で染みていた、次の瞬間、病室の暗闇から三上の首もとに向けて突如ナイフが突きつけられた、思わず動揺を隠せず、顔を上げるとそこには、あの襲撃事件から行方を晦ませていた山部の姿があった、「フフフフッ、どうしたんだ~?、そんなボロボロな姿になって~」 山部はスーツを着こなしながら嘲笑うかのような笑みを浮かべ、ナイフを向けたまま、三上のベッド周辺に置かれていた、椅子へとゆっくり座り込んだ、「わざわざ姿を見せにくるなんて、何のつもりだ?」 三上は冷静な態度で山部を睨み付けながらそう問いかけた、「傷だらけになったお前の姿が見たくてね、お陰で来た甲斐があったよ、」   「下らねぇ、お前達が一連の事件と大きく関わっているのはわかっている。時期に真相が判明するまで、時間の問題だな」     「い~や、真相が明かされることは無い、フッ、どうしてだと思う?」

山部は鋭い視線で三上を見つめながら、再び笑みを浮かべた、「まぁ、俺から忠告だけはしておいてやる。これ以上今回の件に首を突っ込めば、次は怪我だけでは済まないぞ…」   「そうか…だが俺はお前達を追い続ける、」すると三上は、向けられるナイフの先を右手で握り締めてきた、そして、そのまま山部のもとへナイフを押し返した、「次は何が起きるのか楽しみにしてるよ、」  そう三上は山部に向けて呟いた、「フフフフッ、また俺はしばらく姿を消す、精々真相に辿り着けるといいな、」山部はそう応えると、ナイフを下げて、ゆっくりと暗闇の病室から姿を消して出ていった、三上は山部が消えていった方を睨み付けたまま、ふと頭を下げると、出血する右手に視線を向けた。

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