第8話 忍び寄る影
朝の9時、井崎は早朝から自宅を出ると、向かった先は、現在休暇と言う形になっているが実際のところ、自宅謹慎にかかっている自身が働く会社であった、オフィスには行けない為、一階エントランスの待合席のソファに座っていると、遠くから社員を引き連れて歩く何者かの足音が聞こえてきた、すぐに井崎は足音のする方へ振り返ると、ソファから立ち上がり歩きだした、「おい、おい、こんなところで何してるんだ、い~ざ~き~ーー!」井崎が向かった先には、社内の部長である村山と、数人の役員達に囲まれて立ち尽くす、オフィス社長の平川の姿があった、「お前、今自宅謹慎中だろうが!さっさと帰れ!」井崎の姿を見るやいなや激昂する村山に、井崎は気にする素振りをみせることなく、逆に問いかけてきた、「新田次長は今何処におられますか?」 「あ💢、そんなことより帰れつってだんよ井崎!」 怒りがますます込み上げてくる村山は、井崎に詰めようとするのを、平川が静止させた、「まぁ、落ち着け村山、用件が済んだら大人しく自宅に帰れ。新田は今オフィスか?」 平川は役員の一人に問いかけた、「いえ、現在外回りに出掛けているようで、会社にはいません」 役員はそう応えると、井崎は表情を変えることなく平川達にあたまを下げ、エントランスの入り口へと足早に去っていった、その背中を見届けた村山は困惑しながら横を振り向くと、平川の表情が何を考えているのかわからない表情を浮かべながら、じっと井崎の背中に視線を向けていた。
夜の8時、都内ビルに置かれた高級三ッ星店、斎藤は窓からの景色が一望できる白テーブルで、ステーキを食べながら、向かい側に座る企業の役員達とたわいもない会話を楽しんでいた、笑みを向けながらしばらくの間、落ち着いた時間を過ごしていた時、店内の入り口を張っていた部下数人の会話が斎藤の耳に入ってきた、すると、数秒後には、部下の間を神妙な表情で見せる山部が視線に映った、斎藤の表情は一変して無表情になると、会話を楽しむ役員に一言伝えて席を立った、「申し訳ありません、急遽予定が入りまして、失礼します。」去る前に低く頭を下げると、着ていたスーツを整えながら足早に山部のもとへ向かった、「頭、どうやら我々の行動を目撃していたと思われる女が現れました」 山部は少し困惑した表情をサングラスの奥から見せていた、「そうか…その女は何物だ?」斎藤は人気のいない廊下へと歩きながら山部を連れて会話を続けた、「どうやら、例の◯◯商事の社員であることはわかっています、」 山部は窓の外を眺める斎藤の背中を見ながら、斎藤が今何を考えているのか気になった、「長引きかせるの面倒だ、女は始末しろ…」すると、斎藤は後に立つ山部方を振り返り、耳元で一言囁いた、「期待しているぞ、山部、フッ」斎藤はニヤリと笑みを浮かべると、山部のもとから立ち去った、その場で立ち止まったまま困惑する山部は一度、役員達のもとへ戻る斎藤の方を鋭い視線で目に焼き付けると、すぐさま携帯を取り出し電話をかけ始めた、「もしもし俺だ。至急精鋭チームを集めろ、女を始末する。」
芝原署刑事部、捜査会議を終えた三上は、部署へと戻ると井崎に連絡をかけるため、誰にも見られない場所へと移動しようとしたその時、「三上!」同じく部署へと戻っていた加木が三上の名前を呼んだ、仕方なく三上は井崎の連絡を止めて加木のもとへ駆け寄った、「どうしました加木さん?」 「少し気になる事があってな、井崎が働いている◯◯商事についてだ、」 加木はそう話すと、三上を近くにあった椅子へと座らせ、話を続けた、「調べていくうちにわかったんだが、この会社は、ここ最近まで業績はかなりの不景気で倒産騒然まで追い込まれていた、だが、ある日を境から、妙に業績が回復してきている、不正な資金繰りを行っている可能性があると思ってな、」
その加木の話しに、三上は幾つかの点と、殺害された田中が働いていた会社の件について思い出した、「加木さん、今回の事件の裏には確実に何か、織田会が裏で絡んでいるような気がします。」 すると三上は意を決して、加木に一言言放った、「井崎は、事件に巻き込まれただけで、殺害した人間は他にいるのではないかと、私は考えています」 「おい三上!、周りに聞こえたらどうするんだ!」 突然の三上から放たれた発言に加木は思わず周囲を見渡した、「三上、少し飯でも食べに行こう、」加木は三上にそう声をかけると、肩を叩いて部署から出ていった。
「失礼しました。」社長室の扉の前に立つ、部長の村山は、用件を終え、部屋を退出する前に、社長椅子へと腰掛ける平川に低く頭を下げると、静かに部屋から退出していった、「フー、」一人だけになった社長室内で平川は、身に付ける腕時計で時間を確認すると、何か焦っているのか、落ち着かない様子で頭を悩まし始めた、そんな時、「ブー、ブー、」デスクに置いていた携帯から着信が鳴り出した、平川はこの電話に出ようか悩んでいる、しかし、あることを思い出し、仕方なく急いで着信をオンにした、「もしもし、平川です。」
「どうも、御無沙汰しております平川社長…斎藤です。」 携帯から聞こえてくるその声に、平川にどことなく緊張が走り出した、「実は御宅の会社で働いている、女性社員について聞きたいことがありましてね、」 「社員についてですか?」 斎藤からの問いかけに最初は疑問が浮かんだものの、自宅謹慎なのにも関わらず、突然会社に押し掛けてきた井崎の言動を思い出すと、点と点が繋がるかのように、状況を把握し始めた、「新田尚子次長の事でしょうか?」
そう平川からの応えが帰ってくると、斎藤は携帯を握り締めながらニヤリと笑みが溢れた、「居場所を教えろ、わかっているな、平川…」。
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