第7話 動き出す、運命の二人
その日の夜、井崎は会社から帰宅した薫を迎えると、会社が休みの間に任されていた家事の一つにある食事で、自身が料理した夕飯を作り終えるとゆっくりと二人で食事を取っていた、「また明日、調べたいことがあって出掛けてくるから」
「調べたいことって、また事件について?…」薫の表情からは不安げな顔をみせていた、「いつまでも薫に心配させたくないから、どうにかして疑いを晴らさないと、それに、まだ何か裏があるのかもしれないし」ふと井崎の頭には、今朝の新田から語られた話が浮かび上がった、「そう…、そう焦らないで、一緒に乗り切るって約束したでしょ」 薫はそう声をかけるも、どこか表情は帰宅してからもずっと、落ち着かない様子である、「薫、何かあったのか?」 井崎は聞くに落ち着かず薫に問いかけた、すると、薫は井崎の方を見つめると、重い口調で応えてきた、「実は何か最近、誰かにつけられてるような気がして、落ち着けなくて、ごめんなさい、」 思わぬ返答に井崎はすぐに言葉を返す事が出来なかった、「もしかしたら、僕のせいかもしれない、」 「え?、」 「実は、今朝気づいたんだが、週刊誌の記者がずっと知らないところで、つけてきてたんだ」 。
高架下に店を構える焼き肉店、その店内の座敷に、安藤と槙村は対面するような形で席に着いていた、「お待たせしました、牛カルビ2人前です」座敷のテーブルへ店員は運んできた料理を置くと、殺伐とする空気の中、素早く二人のもとから去っていった、店員が消えると、安藤は運ばれた肉の植えにあるトングを右手で持って、平らな更に並べられた牛カルビを順番に七輪の上へと焼き始めた、「戸熊一家殺害事件についての捜査は現在どうなっているんですか?」槙村は七輪から出てくる煙を気にすることなく、早速本題を聞き出し始めた、しかし安藤は、「そんなことより、まず食えよ、ほら」すると、焼き上がったカルビを槙村の取り皿へと置いた、「警察は今、井崎一宏を戸熊一家殺害事件の被疑者である田中を殺害したとして事件を追っているのは、知っています、ですが、私はどうも最初の事件について不可思議な点がありまして、これを見てください、」
槙村は自身のバッグから戸熊宛に送られてきていた請求書を安藤に差し出した、ふと安藤は肉を焼くのを止めて、その請求書を目にした、そこに記載されていたのは多額の金額であった、「こんなにも借金があるとはな、戸熊はギャンブルにでもハマってたのか?」 「いえ、働いていた会社の人間から聞いた話では、とても愛妻家であり、ギャンブルをするような人間ではなかったと」槙村の話しに思わず安藤は苦笑した笑みを見せた、「つまり、あんたの目的は何なんだ?」
そう問いかけられると槙村は真剣な目付きで安藤の方を見つめながら応えた、「とても負債を抱えていた人間が、他社との取引に応じられる程の余裕がなかった筈です、なのに何故取引に応じようとしたのか?、」 すると、槙村は安藤に差し出した請求書を手に取り一言言いかけた、「この金が誰の手に渡っているのか、それを調べて欲しいんです!」 槙村からの要求に安藤は、一度懐から煙草を取り出し、ライターで火を着けると、槙村へ協力することに応じた。
翌日の午後、芝原署から出た三上は、自身が運転する警察車両に乗って、今は倒産し空きビルになっている田中が以前働いていた場所へと向かっていた、「バン!」やがてビルの前へと到着すると、車両を道路の端へと止め、車から降りた、エントランスの扉を開けると、中は灯りが着いておらず薄暗かった、すると三上は、事前に用意しておいた懐中電灯をスーツの中から取り出し、電源をつけた、「カツン!カツン!」誰もいないビルの中、三上の足音だけが廊下から鳴り響き続けた、やがて三上は、実際に働いていたオフィスのあるビル三階へと行くため階段を、慎重に上っていった、「カツン!カツン!」そして、ようやく三階へと辿り着くと、三上はオフィスへと繋ぐ扉を開けるため懐中電灯を床へと置いたその時、何者かの足音が扉の向こうから聞こえてきた、「誰かがこのビルに来ていてる!?」心の中でそう訴えると、三上は警戒の為、懐から拳銃を取り出した、そのまま銃口を扉の方に向けて拳銃を構えると、意を決して中へと突入した、「バタンァン!」でかい扉が壁へとぶつかる衝撃音と共に三上はオフィスのあった部屋へと入った、しかし、目の前に映る部屋の中には人の姿は見えなかった、しかし三上は、警戒を怠らず拳銃は構えたまま周囲を探っていると、その時、「三上さん?」
突如として使われていないデスクの下から、何処か聞き覚えのある声が聞こえてきた、すぐに声のする方へと振り向くと、そこには、井崎一宏の姿があった、「井崎さん!?、こんなところで何しているんですか!」思わぬ遭遇にお互いが状況の把握に遅れ困惑してしまった。
8分後、何故このビルに訪れていたのか、各々がようやく理解し始めていた、「そう言うことですか、自分から真相を探ろうとしていたと、まさか井崎さんがここに来るとは、思いもしませんでしたよ」 「何か勝手な行動をしてしまい捜査に支障をきたしてしまって申し訳ありません」 「いえいえ、私も単独でここに来た訳ですから、」 三上の脳裏には井崎が容疑者であると言う疑惑がちらつくなか、どうにか自然を保っていた、「三上さんがここに来たと言う事は、何かわかったのですか?」 井崎はあの日の事件に何が起きていたのか一刻も早く疑惑を晴らしたいという葛藤が疼いている、「いえ、わかったと言うよりかは、更に謎が深まった状況でして、以前ここは、何ら変わりのない中小企業だったようですが、ある日を境に業績が日に日に悪化していった、そして、気がつくと多額の返済を抱えたまま倒産してしまった、」すると三上は突然、何かを決意したかのように井崎の方を振り向いた、「正直に言います、私は何者かがあなたを事件の容疑者にさせようとしているのではないかと考えています… 」 「三上さん、」
井崎はその三上の目付きから、疑いようのない意思を感じ取った、「ですが、残念ながらまだ確証がない」 「確証ならありますよ、」井崎から告げられたその発言に三上は驚きを見せた、「実は、私が事件に巻き込まれたあの日に、この現場の外を目撃していた人がいまして」
「それは本当ですか?」 「偶然にも私が勤めている会社の女性上司で、彼女がきっと何者かわかるはずです」 すると三上はすぐさま運転席にあるグローブボックスの中から捜査手帳を取り出した、「井崎さん、詳しく聞かせてください、それと現在その方はどちらに?」。
「その方はど…ちら……に…………プツン!」 車内の中に仕込んでいた盗聴機からAirPodsで会話を耳にしていたのは、三上、井崎が乗り込んでいる車両から、少し遠く離れた対角の車道に止まる、黒のアルファードに乗り込んでいる山部であった、「フフフフッ!面白い事になってきた~、笑」すると山部はエンジンをつけ始め、運転席の窓を開けると、気づかない二人の様子をサングラス越しから微笑むと、車を走らせた。
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