第4話 お前は誰だ?

住宅街へと足早に歩く長髪の男の後ろを、息を呑むように井崎は追跡を続けている、「コツコツ、コツコツ、」すると、男は突然住宅街を右へと曲がり、車が通る大通りへと入った、井崎は男を見失わないよう急いで右へと曲がると、男は更に遠くへと井崎から離れていた、しばらくの間、井崎は間を明けながら追跡を続け、やがて男は、とある人集りの少ない路地へと回り、薄暗いビルの中へと入っていった、井崎も揺るぐことなくビルの中へと入ると、ビル内の廊下を慎重に駆け上がった、「カツン!カツン!」 静かに息を殺しながら、階段を上がる音だけが鳴り響き続けた、そしてその数分後、井崎はビルの屋上へと登りついた、屋上へと繋がるドアノブを握ると、井崎はゆっくりとドアを開いた、開けた途端外から冷たい風邪が井崎のもとへ吹き込んできた、やがて、屋上へと足を着け、井崎は周りを見渡すと、人がいるような気配が屋上には見られなかった、「はぁ…はぁ…」 緊張で暑くなっていた体温が寒い空気を感じることで、冷静さを取り戻そうとしていたその時、「ガサッ!」 突如井崎の後ろから何者かが腰から何かを抜き取る動きを感じ取った、そして、「ジャキッ!」井崎の後頭部へ拳銃を後ろから突きつけられてしまった、その瞬間、屋上から一気に緊張感が走り出した、「お前がやったのか?お前は誰だ!」 井崎は両手を上げながら意を消して後ろの人物に問いかけると、ゆっくり身体を後ろへと振り返った、視線の先にはやはり、黒いコートに帽子を被った長髪のあの男であった、すると、「ガチャッガチャッガチャッガチャッ、」突如として銃口を突きつける男の表情は怯えだし、拳銃を握る腕は震えだしていた、その様子に井崎は男の心情が理解できなかった、「お前…誰だ…?」 男は井崎にそう問いかけてきた、「やはり戸熊を殺したのはお前なんだな!?、」 緊迫が更に加速し始めたその時、男は錯乱した様子で井崎の胸に銃口突きつけてきた、「止めろ!何しやがるんだ!」 

「誰だ!?、お前は誰なんだぁ!」 やがて二人は掴みあいになり屋上の手すりへと、井崎は身体をぶつけられた、「グワッ!」 背中から強い痛みを受けるものの、井崎は身の危険を守るため、痛みに耐えながら力ずくで男が持つ拳銃を奪おうと動いた、「や…め…ろぉぉ!!!!」 互いが拳銃を激しく掴み合いながら、井崎は男の顔を険しい顔で睨み付けた、その時、「ドォーーーーン!」屋上内で一発のでかい銃声が響き渡った。





会社から退社したばかりの井崎薫は、街中のビルを見上げながら歩いていた、その間に何かわからない不穏な予感がずっと心の中でよぎっていた。




「起………ろ…、起……き…ろ!、おい!起きろ!」

慌て誰かの呼び声と共に突如として目を覚ました井崎は、何故かビルの屋上ではなく、ビル下のコンクリートの上で眠っていた、「全く、いつになったら起きるだ馬鹿が!」 口調の悪い声が聞こえる方へ動揺するなか井崎は振り返ると、その瞬間、頭が真っ白になった、そこには自分と瓜二つのもう一人の自分がヤンキー座りでこちらを見ていたのだ、「何で……俺がもう一人…?」井崎は尻餅をつけたまま唖然とした表情でもう一人の井崎に驚きを隠せなかった、「おいおい!、まさか忘れた訳じゃないよな?」 何の困惑も見せない別の井崎にしばらく言葉が出なかった、咄嗟に頭から浮かび上がったのは、「お前ドッペルゲンガー?」 頭はまだ真っ白になったまま、そう問いかけた、すると別の井崎は落胆するような様子で話しかけたきた、「んな訳ねぇだろ!?、ドッペルゲンガーだったらお前もう死んでるから、あっ、そう言えば」すると、別の井崎は横に視線を振り向けた、思わず気になった井崎は視線を向ける方へ振り返ると、そこには、出血しながら倒れる、あの男の姿があった、「!?、そんな…おい!しっかりしろ!おい!」 井崎は慌てて男に駆けようとするも、「無駄だよ、もうそいつは死んでる…」 別の井崎は蔑んだ目で男の方を見ていた、井崎は男の顔をちらりと覗くと、男は生気の無い目を開けていた、「お前は、誰なんだ?」    「あ!?、まさか俺の事、どう見たってお前だろ、井崎 一宏だよ」   「ふざけるな!俺はこんな人間じゃない!」 井崎はふと込み上がってきた怒りが溢れ始め、もう一人の井崎の胸ぐらに掴みかかった、「そんなこと言ってる場合か?、あの死体誰が殺したと思う?、あ?」    「違う!俺は殺してない」    「なら、本当の罪人を引きずり卸せ!、お前に残された道はそれしかない、」  

そう告げられると、井崎が掴んでいた両手は緩み、危機的状況であることを理解し、膝から崩れ落ちた、「もうすぐ警察が来る、」 別の井崎にそう告げられ、ふと顔を見上げると、既に彼の姿は消えていた。






夜の12時、その頃井崎は、近辺の大学病院内の待合椅子に座っていた、「コツコツ、」深夜帯の院内の廊下奥から、数人の誰がこちらに歩いてきていることに、井崎は目を瞑り頭を抱えながらの状態で感じ取った、やがて足音が近くなるのと同時に顔を上げた、「井崎さん、どうも芝原署の加木です。」目線の先には三人の刑事が井崎の前に立っていた、真ん中に立つ警部の加木の後ろには、加木と同じく社内に訪れてきた目付きの鋭い安藤と言う刑事、そして、その隣には、事件が起きたあの日に名刺を受け取った三上刑事の姿があった、「夜分遅くに悪いんだが、話聞かせて貰えるなか?」。



芝原署取り調べ室、井崎は署内に来るやいなや長時間の取り調べが続き、二時間後、「コンコン!失礼します。」 取り調べにかけていた加木と安藤の中に署内の職員が取り調べ室へと入るとすぐに、加木に耳打ちをすると、井崎はようやく帰宅を許可された、「井崎さん、今日はもう帰って宜しいです」 加木にそう告げられると、井崎はゆっくりと立ち上がり取り調べ室から出ていった、井崎と対面するように目を合わせていた安藤の表情は、かなり疑いを持っているような目付きで井崎を見送った、「バタン!」。

マジックミラーの裏から取り調べをじっと見ていた三上の表情は険しかった、すると、部屋から加木と安藤が中へと入ってきた、「加木さん、彼についてどう思っているんです?」  「ハッ、まさか本腰の田中が亡くなる事態になるとは、それに、その場にいわせていたのがまた井崎一宏だとは、」   「私は、井崎が田中を殺害したとはどうも思えません。」   「それはお前の憶測だろ、」安藤は後ろから井崎の発言に反対を呈した、「まぁ何にせよ、上からの指示が出るまでは動くことはない、だが、井崎が現場に居合わせていたのは単なる偶然ではないと、私は思っている、」 加木の言葉に三上は小さく頷いた。

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