第5話 痕跡
二日後の午後、三上は田中の遺体が運ばれた法医学教室に訪れていた、死体の解剖は昨夜の1日で終わり、三上は遺体をシートに被された状態の手術台を見下ろしながら監察医の大津から遺体について説明を受けていた、「検視の結果、後頭部には大きな出血の跡があり、脛椎、背骨はほぼ損傷、」 「死因はやはり落下によるものか?」 「だと思っていたんだが、これを見てください」 大津は不穏な視線で三上の方を見ながら、棚に置いていたゴム手袋を再び身に付け、手術台に被されるシートを剥がして、田中の遺体を露にした、「実は田中の胸辺りに二ヶ所、銃弾の痕跡が残っていまして、」 「銃弾?、」大津の言葉に三上はすぐさま田中の遺体を確認した、そこには大津の話す銃弾の痕跡が間違いなく残っていた、「痕跡から推測すると、口径 9mm
銃身長 112mm、使用弾薬 9x19mmパラベラム弾を所持した、拳銃が殺害に使われたと考えられます。」 三上は大津の報告に耳を通しながら、遺体を見つめ考え込んだ、その時、「ガチャン!」 突然法医室の扉が開き、警部の加木が中へと入ってきた、「加木さん、どうしたんです?」 「三上、すぐに署に戻ってきてくれ、」 「何かあったんですか?」
「本部から指示が出た、井崎一宏を田中の殺害容疑で捜査に動くと」 。
深夜2時、とある臨海部に置かれた廃棄物処理場では、「ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ!」 目の前に映るクレーン車が着々とこちらに近付いてきいる、男は鉄パイプの椅子に縄で両腕、両足を括りつけられ、挙げ句の果てに口をガムテープで塞がれていた、そして、「ボコッ!」 高いスーツを羽織り、サングラスを身に付ける山部と名乗るヤクザに凄惨な拷問を受けていた、「ボコッ!ボコッ!」やがて殴られ続ける頬には痛々しいアザが出来ていた、「おい!、、お前達が隠した帳簿はどこにある?、なぁ…耳元で聞かせてくれよ」 意識が遠退く男にまともな返事が返ってくる筈がなかった、「ずびまぜん!ずびまぜん!ずびんまぜん!」 「謝罪なんかいらねぇんだよ!さっさと教えろや!」 すると、再び山部は男を殴り始めた、その光景を遠くから眺めていた斎藤はポケットに手を入れながら部下に一言呟いた、「煙草一本、貸してくれ…俺の心がニコチンを欲している」 「わかりました!」威勢よく返事をすると、部下は足早にその場から走り出した、「ボコッ!ボコッ!…」 まだ殴り続けている山部に斎藤は思わず声を掛けた、「山部!それ以上やると情報聞き出す前に、そいつ死んじまうぞ」 そう言うと山部の手が止まった、「情報はもう聞き出してますよ!」 その返答に思わず斎藤は苦笑した笑みが溢れた、「頭!煙草用意しました」 「おー、悪ぃな」部下から煙草を受け取った斎藤はすぐさまライターに火を着け、吸い始めた、「全く、俺に拷問は正味合わないな、、死体処理は任せたぞ、」煙草を加えたまま斎藤は部下に告げながら処理場から去った。
翌日、芝原署刑事部では、所属する捜査員達が一斉に会議に集まっていた、「我々が追っていた容疑者である田中の報告が鑑識から上がった、」会議室のモニターの前に立つ管理監の和田部は険しい表情で鑑識からの報告を呼び掛けると、昨晩会っていた大津が席から立ち上がり、報告をし始めた、話の詳細は昨日耳にした事が全て報告として上がっていった、会議室に居座る三上は渡された遺体の資料にじっと目を通していた、「やはり本丸は井崎でしょうか?」 「そうだろうな、」 隣で話し込む加木と安藤の会話が耳に入ってきた、やがて大津からの報告が終わると、一度席に座っていた和田部が再び立ち上がった、「田中が殺された当日、最後に接触していた人物、井崎一宏が大きく殺害した容疑がある、捜査員は井崎が田中を殺害したと言う決定的な証拠を探しだしてくれ、会議は以上。」 そう告げると、和田部達上層部は会議室から立ち去り、捜査員達は一斉に立ち上がり頭を下げた。
会議を終えるも三上はどこか府に落ちない様子で捜査資料を纏めていた、その様子を見ていた加木が三上に問いかけてきた、「何か気になるのか、三上?」 すると、しばらく黙り込んで考えていた三上は我に返り、加木へ率直に応えた、「私は
、井崎が殺害するような人間だと、どうも思えません、」 「なぜそう思った?」
加木からの問いかけに少し間を空けて応えた、「私の直感です、」 「それはどうかな?、俺には奴が働く職場、環境、それらを考慮した上で、殺害に動くような人間見えたがな」 安藤は三上の応えに反論するような言葉で返してきた、「いいか、事件に私情は禁物だからな」安藤は三上を指差して鋭い視線を向けながら、会議室へと出ていった。
その頃井崎は、会社からしばらくの間で休暇を取らされ、自宅のリビングでテレビを眺めていた、そんな時、「プルルル!プルルル!」 リビングのテーブルの上に置いていた携帯から着信が鳴り始め、井崎は恐る恐る電話の相手を確認した、電話の相手は同じ会社の上司である新田尚子からであった、井崎はすぐさま電話に応答した、「もしもし井崎です。」 「井崎君、突然でごめなさいね、」 「どうしたんですか?こんな時に」 すると新田の口調が重く変化した、「実は井崎君に話したいことがあって、今から何処かで会えない?」 「今からですか!?、」 井崎は慌て携帯を耳から離すと、仕事に出掛けている妻に手書きのメモを書くよう準備し始めた、「わかりました、場所はどこにしますか?」。
一時間後、井崎は都内ビルにあるカフェへと足を運ばせていた、やがてエスカレーターを降り、新田から指定された店へと入店すると、新田はビルの下を見下ろせるテラスの席で待っていた、「遅くなりました新田さん、」 「ごめんなさいね突然こんなところに呼び出して、」 「いいえ、どっちにしろ今は暇だったので構いませんよ、それよりも話って何ですか?」 テラスの席へと井崎は座ると、新田は一度頼んでいたコーヒーを口にすると、井崎に用件を話し始めた、「あの日、私見ていたの、、、事件が起きた日を」。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます