第2話【完璧を求めても】

「どうもありがとうございました」

 宇辻はPC前でため息をつく。自身が開いた【セッション】が終わったからだ。

 卓--TRPGとは元々卓上ゲームであり、最近はオンラインでの開催が増え、ゲーム自身もデジタルしたから名残はなくなってきたが、ゲーム全体に対して【卓】と表現する(根拠なし)。

 そしてゲームを行っている際の事を演奏者が集まって演奏する様に例え、【セッション】(根拠なし)という洒落た言い回しをする。

「あーーー楽しかった」

 GMをするのは大変な事ではあるが、色々コツがある。

 宇辻は何年もTRPGをやっているため彼の中でその経験は言葉として出力できる程に確かなものとなっているのだ。

「ちょっと心配だったけど終わったな」

 好きな音楽をかけ、セッション中の【ログ】を確認する。

 TRPGは少し昔からデジタルセッションがドンドン主流になって来た。

卓上で、オフラインでやるにしても色々準備ができない。その場所に中々行くことができないなどの制約が付きまとってしまうが、それがないためだ。

 デジタル式となり、PC(キャラクター)としてPLが行うRPも文字で残り、データの処理も文字で残るようになってきたため【ログ】という形でセッションを保存できるようになったのだ。

 セッションの直後にログを確認し、見て宇辻は自分一人でセッションの反省会を個人で行っている。

「大体70点ぐらい?」

 PLたちのことを考慮せずに自身の個人評価を見た客観的結果を点数にして表す。

「じゃあ、実質100点か」

 そのセッションで70点ぐらいのことができたなら、もう十分だと唸った。

 100点を求める事は宇辻はしない。

 100点を求めすぎるた場合、PLたちにも負担を強いてしまう可能性が出てきてしまうからなのと、100点を発揮し気苦労をする事を宇辻はやめている。

 TRPGは遊びなのだ。

 TRPGとは楽しむために行う事なのだ。

 だとするのに、大変なGM作業を更に大変にし、精神的負担を受けるようなことを宇辻は良しとしなかった。

「でも、シナリオについてはちょっとわかりやすくなかったな。情報直すか」

 その上で分かりやすさを追求する。

 分からないものをPLたちに強いても、PLたちは理解できない。

 理解の上でPLたちに「良いシナリオ」だと納得してくれたらGMはそれだけで満足できるものだと宇辻は想う。

 そのレベルに達する事は中々ない。

 PLたちにそんな言葉を投げかけられることもほとんどない。

 だけども、できるだけ自分の中での【納得】を求めて、宇辻は努力していくのだった。

 ただ、一つだけ問題がある。


「このシナリオ。次、誰とやるんだ?」

 今回メンバーを集めるのクッソ色々な努力をかけた宇辻は思う。

 シナリオとはただ完成すればよいものではない。次の段階、実際にやってみるまで本当に良いモノかはGMにも分からないのだ。

 だが、肝心のやる人が――PLがいない。

「………その時。なんとかなるだろう」

 今はシナリオを修正する。

 そうして努力する宇辻だが、その努力が実を結ぶことは少ない。

 そう、TRPGはボッチに厳しい。

 だが、それでも宇辻はTRPGを止められない。

 この沼は何処までも深い。だからこそ、諦めずもがき苦しむしかないのだ。

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