三
思い切り不機嫌な顔で部屋に帰るとゴトウさんがリビングにちょこんと正座をしていた。
「お前、もう大丈夫なのかよ? めちゃぐったりしてたじゃんか」
俺が言うとゴトウさんは、「はぁ……ご心配をお掛けして申し訳ありません。何だか片葉君の体から離れた途端に凄い疲労感が襲って来て。その後の記憶が無いんです」と戸惑い顔で言う。
「何だそれ。憑依して消耗したってことか?」
訊ねると、「そうなんでしょうか? 何しろ誰かの体に入ることなんか初めてのことだったので良く分からなくて」と気だるそうに言う。
どうやらゴトウさんはまだ完璧に回復した訳じゃあないみたいだ。
憑依はあまりしない方が良いのかも知れない。
と言うか、もう二度として欲しくない所だが。
「それより、片葉君、大分不機嫌そうでしたね。何かあったんですか? 僕、気を失っているうちに何かご迷惑をお掛けしました?」
心配げに俺を見上げるゴトウさん。
俺は大きくため息を付くと「違げーよ!」と両手に拳を作って言った。
ゴトウさんの頭の上にクエッションマークが浮かぶ(実際にはそんなことは無いが)。
「甲斐だよ、甲斐」
少し声を落として俺は憎いあいつの名前を口にする。
甲斐の名前を聞いて元気が無かったゴトウさんの顔に一気に光が差す。
「え、甲斐さんですか? 甲斐さんと何か?」
期待のこもった目をするゴトウさん。
「ゴミ出しで一緒になっただけだよ。別に何も無い」
俺の台詞を聞いてゴトウさんが「え?」と声を漏らした。
「それで?」とゴトウさんは俺に訊く。
「それでって……」
さっきの甲斐との出来事を思い出す俺。
あいつのふてぶてしい態度を思い出して思い切り顔を顰める。
「それでも何もねーよ!」
吐き捨てる様に言う。
ゴトウさんは立ち上がり、ふわりと宙に浮くと俺の直ぐ近くまで来て恨めしそうな顔をして俺を見る。
「片葉君、甲斐さんに彼のこと、聞いてくれなかったんですか?」
俺は言葉を詰まらせる。
「いや……その……」
とてもじゃ無いけど甲斐と世間話何ぞする心境になれなかった。
やつからやつ自身の情報を探る、だなんて出来るかボケ!
それが俺の本心だ。
しかし、ゴトウさんとの約束を果たさねば甲斐の土下座を拝むことは出来ない。
「き、今日はタイミングが悪かっただけだ。これからちゃんと情報を集めるから」
苦笑いしながら俺は言う。
「……そうですか。あの、よろしくお願いします」
ゴトウさんが俺に頭を下げる。
「そういうの止めてくれ。まあ、兎に角やってみるから」
俺の台詞にゴトウさんが顔を上げて、「はい!」と明るい笑顔を作った。
はぁ。
やれやれ。
全然乗り気になれないがやるしか無いか。
はぁっ。
心の中でため息を付くと俺は朝食を済ませて身支度を整える。
今日は仕事がある。
スーツを羽織りながら、「これから仕事に行くから。帰りは夜ごろになる」と一応ゴトウさんに伝える。
体調が少しばかり良くなっていたゴトウさんは笑顔で「仕事って霊能者の……行ってらっしゃい」と言った。
「……行って来ます」
幽霊に見送られ、俺は部屋を出た。
そう言えば仕事をするのは久しぶりだ。
気合を入れる必要も無い仕事。
今日も適当に稼ぎますか。
外は晴れている。
眩しい太陽の光が一日の始まりを告げていた。
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