‐終わりの、終わり‐

 少しだけやり残したことを思い出した。

 これはルナと、そして友だちとの約束の話だ。


 ルナの葬儀がつつがなく終わり、僕は少しだけ肩の荷が下りた気がした。

 彼女の親代わりだった茜原先生と共に、彼女を荼毘に伏し、彼女のために祈る。そんな幸せな時間だった。彼女との約束の通りにスケッチブックを共に送った。

 彼女が書いた僕の絵を、ただ一枚だけ僕の手元に残して。

 そんな式の終わりに、そっと会場を抜け出して大学へと向かった。

 例の機械は、まだ先生の部屋にあった。

 



「そうだ。最後に……そして最初に」

 僕は、機械のスイッチを入れる。


『僕より、僕へ。君は、彼女の元を離れるな。分かった? オーバー』

『彼女の元に、帰ってやれ――と、言っておけば大丈夫かな』


 あの時は、聞こえなかったしね。

 さて、僕は機械をしっかりと見つめた。


 

 アンテナのようなガラス管には、クラゲがふよふよと浮かんでいる。

 たしかに、そこに水が入っているんだろう。

 これもまた閉ざされた水だ。

 ずっと前から閉ざされた、水。

 僕は――、一瞬これが多額の金銭の下にやり取りされたものだというのが頭をよぎる――近くにあった先生のトロフィーで、ガラスの管を叩き割った。

 もったいないという気持ちはゼロではない。

 でも、僕の心は、この中の命がそれらすべてよりも重要だと思ったのだ。


 じゃあ、これで君も行けるな。

 床に落ちた水滴の中に、クラゲはどこにもいなかった。

 水も、すぐに消え去ってしまった。

 



 

「ありがとう」

 ソラの声が聞こえた気がした。 

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