‐終わりの、終わり‐
少しだけやり残したことを思い出した。
これはルナと、そして友だちとの約束の話だ。
ルナの葬儀がつつがなく終わり、僕は少しだけ肩の荷が下りた気がした。
彼女の親代わりだった茜原先生と共に、彼女を荼毘に伏し、彼女のために祈る。そんな幸せな時間だった。彼女との約束の通りにスケッチブックを共に送った。
彼女が書いた僕の絵を、ただ一枚だけ僕の手元に残して。
そんな式の終わりに、そっと会場を抜け出して大学へと向かった。
例の機械は、まだ先生の部屋にあった。
「そうだ。最後に……そして最初に」
僕は、機械のスイッチを入れる。
『僕より、僕へ。君は、彼女の元を離れるな。分かった? オーバー』
『彼女の元に、帰ってやれ――と、言っておけば大丈夫かな』
あの時は、聞こえなかったしね。
さて、僕は機械をしっかりと見つめた。
アンテナのようなガラス管には、クラゲがふよふよと浮かんでいる。
たしかに、そこに水が入っているんだろう。
これもまた閉ざされた水だ。
ずっと前から閉ざされた、水。
僕は――、一瞬これが多額の金銭の下にやり取りされたものだというのが頭をよぎる――近くにあった先生のトロフィーで、ガラスの管を叩き割った。
もったいないという気持ちはゼロではない。
でも、僕の心は、この中の命がそれらすべてよりも重要だと思ったのだ。
じゃあ、これで君も行けるな。
床に落ちた水滴の中に、クラゲはどこにもいなかった。
水も、すぐに消え去ってしまった。
「ありがとう」
ソラの声が聞こえた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます