‐3‐ 其の壱
一緒に詰め込まれた車内で、彼らは「MI6」だと名乗った。
「表向きにはイギリスの諜報機関だが、表の仕事同様に裏の仕事もある。我が英国には魔術協会というものが存在するんだ。公になっているものではないが……」
男は、一度言葉を切り、パスのようなものを見せた。
名前は、レオ・テイラーと書いている。
だが、秘密機関の証明を見せられたところでわかる訳もない。
にしても、ロシア語よりかは言葉が理解できるだけいい。
「死後の人間と話をできる装置をあれだけ秘密裏に作られては、魔術の正当な運営を行う機関として黙っているわけにもいかないって話でね。そこで暴力的ではあったが、あのような形で処分することになったわけだ。騙したようで申し訳ない」
「僕のせい、というわけですか」
「いや、君に責任は求めていない。これは私たちの仕事だ」
時間は、僕が研究所へたどり着く前、空港に着いた直後まで遡る。
◇
「日本人だな?」
唐突に後ろから声をかけられた。
周りがロシア語を話している中、英語で。
それは冷たく、鋭い言葉遣い。
普通の人ではないと一瞬で判断した。
「我々は一つの機械がロシアから、そちらの国――日本へと渡ったのを知っていると言ったら、どう思う?」
僕は、思考が一度固まった。
しかし、僕はどう反応するべきだ?
とりあえずは、振り返る。
金髪碧眼。しかし、周りのロシア人とは違うように感じる。
だが、どこの国の人間であるかまではさすがに分からない。この時点では。
「英語が理解できるか?」
「ええ。あまり難しい言葉は無理ですが」
「で、質問のことは、どうだ?」
「いえ、何と言ったらいいか……」
僕が答えにまごついているのを、知っているものと判断したらしい。
警察――もしくは、何かしらの組織の人間だと直感的に判断したものの、正しい誤魔化し方みたいなものは分からなかった。どうにかそれらしく繕うしかない。
「そちらの機械については、特に何かを言うつもりはない。あれは真にエジソンの発明だが、我々の領分を犯すものではない」
「どういうことですか?」
彼は笑った。
目だけは笑わず、嘲笑のようにも見える笑みだ。
「そのままの意味だ。我々の調査によって、失敗作と判断したまで。あれに死んだ人間の世界と通信をできる力はない」
「そうなんですか?」と僕はそっけなく言う。
バレないように。
僕が何も聞こえてないみたいに。
「だが、あれを君たちに売りつけたという集団には、少しばかり反省してもらわねばならない理由を見つけてしまってね。彼らの実態を調査したい。彼らに案内してもらって、君がもし中に入り込めるならと思ったんだ。どうだろう?」
「恐らく、そうなると思います。どうしたらいいですか?」
「協力的で助かるよ。無理強いするのは、嫌だったからね」
彼はコートのポケットから、一つのマイクロSDを取り出した。
「君、ケータイはあるか?」
「なんです、それは?」
「SDに似せた発信機だ。君のケータイから電源を貰うだけ」
「もしもケータイの電源を切られて、預かると言われたら?」
「最悪のケースではあるが、それくらいは考慮している。君がどの車に乗ったかさえ追跡できれば、あとはどうにかしよう。空港内の大量の人ごみにまかれて逃げられることだけは避けたい」
僕はそれを了承し、ケータイにSDを差し込んだ。
しかし、箱を開けてみれば、ケータイはすぐさま電源を切られてしまったわけだが、空港の中ではまるで拉致のように連れ去られるはめになった。
僕らはあまりに目立ってしまった。
あれで追跡できないわけがない。
僕を追って侵入してきた彼らは、マシンガンで多くの人間たちを殺した。会話をしたセルゲイやアナスタシア……あそこで働いていた人たち、知り合いというわけではないが、顔を合わせた人たちは、全員死んでしまった。
僕は、間違いなく彼らを殺した一因となったのだ。
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